「画面の向こう」

数ヶ月前に会社を辞めた奴が
ネット上に動画をあげていると
同僚が教えてくれた

とにかく酒癖が悪くって
そうなるとすごく
面倒くさい奴だった
どうやらこれで
食っていこうとしているらしい

いくつかの動画をあげていたが
そのどれもありがちなもので
それほどクオリティの
高いものでもなく
同僚達にも酷評され
そして見下されていた

にも関わらず心の何処かで何かが
引っかかって離れない

それがなんであるか
その低いクオリティの動画を
見ているうちに気がついた

楽しそうなのである

生きていて楽しそうなのである
先の事を考えると
愚かな事をやっていると思うのは確か
でも迷惑さえかけなければ
他人がどう思おうとも
本人が今、楽しく生きている
それだけで生きている意味が
あるのではないか

あらゆるしがらみに身動きが
取れない自分は歯がゆく
そして何だか負けていると感じた

画面の中の奴はあいも変わらず
美味そうにビールをあおって
こっちに話しかけている