「昔馴染み」
病院の受付に
二人組の老人が声をかける
二人とも高齢だが年齢の割には
背筋も伸びて
身だしなみもしっかりしたオシャレな紳士だ
ハンチングを被った方が尋ねる
「K田A子さんの病室はどこですか」
しかし受付の女性がパソコンで
検索しても名前さえヒットしない
「入院していないですし、名前の検索にも該当者がいないようです」と答える
「あれ、ここに入院しているって言ってたんだけどな」
「生年月日はわかりますか」
「あーいつだったかな、生まれ年はわかるんだけどなぁ…K田さんいない?…あれ?K田?違うやT川だ」
するともう一人が弾けるように
ハンチングの老人の肩をはたき
のけ反りながら指を差して茶化した
ハンチングの老人も
相方の肩に手を添えて笑いが堪えられず
お前も最初気付かなかったろって
到底年齢に似つかわしくないじゃれあいをしながら
教えてもらった部屋に向かって
歩いていった
入院している女性もたぶん
老人達と同じくらいの年だ
果たして三人の過去に
どんな物語があったのだろうか
その後ろ姿を見て
なんだか少し胸が熱くなる