「裏生地問屋の息子」
息せき切って地方都市の長閑な川沿いを
学ランを着た裏生地問屋の学生が
自転車で走り去る
家業の手伝いが押して時間に遅れそうだ
今日は高校生の娘の家庭教師
バイト料はめっぽう安いが
楽しくって外したくない仕事だった
この前地元の大学に落ちたら
浪人しようかと相談された
ばか言え、入れるところが在れば
入っちまえよ
時間を無駄にするんじゃないよ
って言ってやった
次の春、彼女は地元の国立大学には合格できず
都会の大学に入るため越していった
それはそれは
裏生地問屋の息子が知る由もない
小さな小さな淡い想いを道連れに