100%な朝を迎える方法

平凡な毎日の何気ない出来事を切り取っていく

「右手のこと」

祖母が写る写真はどれも
左手で右手を包んでいる
祖母の右手は野口英世のように
指が癒着しているのだ
事情は良く知らない

はるか遠方に住んでいたから
共有できた時間は短く記憶は少ないが
その割には器用に箸を使い食事をとり
テキパキ家事をこなし
綺麗に裁縫をしていた姿を覚えている
でも写真では
どれもがそれを隠すかように写っていた

母は幼少の頃
手にしていたセルロイド製の人形が引火して
片手に酷いケロイドの火傷を負っていた
子供の頃から“おばあちゃんの手みたいだ”と
揶揄されてきた

そんな話を父と結婚する前、義理の母
祖母に話をした
その時、祖母は黙って
その手を不具な自分の手で包み込んで
ずっとなでたのだそうだ

父との今後を少しばかり悩んでいた母だったが
それで父と結婚することに決めた

そんな祖母も十数年前にすでに亡くなっている

まだ父が幼い頃の家族写真
四方が剥がれて褪せてしまった白黒写真
たまたま見つけたその一葉の写真には
まだ若い頃の祖母が
背筋をしゃんと伸ばし凛として
居住まっていた