「瞬間」
たまに趣味で写真を撮る
このデジタルな世の中にあって
今でも
35mmのフィルムを使っている
もちろんデジタルカメラや
携帯電話に納めるのもいいが
いい絵だけを残して悪い絵を消してしまうことに
やたらめったらと撮ってしまう作業に
ためらいを感じてしまう
瞬間、瞬間を掴みたいのだ
露出を絞り
焦点を合わせ
その時に流れる風を
体に巻きつく温度を
漂う香りを
その人の心を
自分の想いを
ファインダー先の空間に込めて
切り取る
今だ、と思う瞬間を
フィルムに閉じ込める
たとえそれが
駄作であったとしても
それはそれでとても
尊い
「死んだとき棺に入れてもらうから、写真撮らせて」
仲の良かった写真好きの隣人
引越すまで残り数日となったある昼下り
そのお婆さんから頼まれた
その切ない願いに
せめていい顔をしようと努めた
頬を上げて
目を笑って
口元を自然に
作っては緩め、作っては緩め…
ところがシャッターは
なかなか押されなかった
3度目を緩めたとき
突然その瞬間は切り取られた
20xx年1月19日午後12時38分
後にも先にもその一瞬しかない
とてもとても尊い時間
困惑したような
申し訳ないような
そんななさけない自分が
きっとその中には収められている