100%な朝を迎える方法

平凡な毎日の何気ない出来事を切り取っていく

「ゆでたまご」

悪い報せはやっぱり 未明にやってくるものなんだ

留守電にその知らせは入っていた  淡々と母親が事実のみを伝えて切れていた  ああ、ついにこの日が来たのかと 深く深呼吸をした

夏の暑い夜に 静かに祖母は亡くなった

そろそろ覚悟しておけと 母親に言われてから 随分経っての大往生だった  入院すれば都度、施設に入ればいつも 会いに行こう、行こうと思い続けて 結局難癖言い訳つけて行かず終いだった  その期間 ずるずると実に十年もの歳月が過ぎていた

祖母の家は職人業を営んでいて 子供の頃は従兄弟十人近くが 事あるごとに集まって賑やかだった  幼少の頃は訪れることが楽しかったが 大人になって各々に忙しくなり それよりも年を経るごとに見えてくる 感覚の違いから少しずつ疎遠になってはいた

久しぶりに葬祭場で一同に会した従兄弟達は相変わらず賑やかだった 叔父が最後の挨拶で認知症から手が離れ「ほっとした」って言っていた  遺影がデジタルで少し白じんだ  棺桶の中に紙でメッセージを入れるイベントに少し違和感を感じた  そんな感じで、とにかく悲しいというより終始、感情がふらふらしていた

そんな自分がふとした会話で呼び戻される 荼毘に伏されている間の精進落としの時間
叔母からの言葉「初孫だったからあなたが来る時はいつも機嫌が良くてゆで卵作ってたのよ」と  早々に夫を亡くし自営を切り盛りした祖母は家事は殆どしなかったらしい その祖母が孫のためにできる手料理としての

ゆでたまご

その何気ないその話の中に 自分の怠惰を薄情さを そして霞んでいた哀しみが濃くなると共に とめどない後悔としてどうとおし寄せてきた

ひとり静かに輪から外れ 靴を履き空を、煙突を見に行った  せめて煙だけでも最後に見たいと思った