100%な朝を迎える方法

平凡な毎日の何気ない出来事を切り取っていく

「もの言う人々」

“ぜんぜん
人の悪口言わないんですね” って言われた

ああ…そうですね って
曖昧に返事して
ふと、考えを巡らす
思い当たるとすれば
あの出来事だろうか

遊園地でのバイトのこと
昼休みどきの小さな休憩所は
すでに学生とパートのおばちゃんで
鮨詰め状態だった
遅れて来た僕は角に席を見つけ
持ってきたパンをかじりはじめる
臨席の他のバイトの仲間たちは
すっかり食し終え 声を張り上げ
同僚の悪口で盛り上がっていた
ターゲットは不要に礼儀正しく
しつこいほど人なっっこく
考えが古くさく服装が地味な
公務員を目指す同じバイトの若者だった

一風変わっている
彼の挙動発言一つ一つを
面白可笑しくリーダー格が見下す
そんな盛り上がりの最中
後ろでずっと黙って聞いていた
パートのおばちゃんが激しく一喝した
以降、消沈し手の動く音だけがカサカサと
部屋に聴こえるようになったので
そそくさと場を後にした

持ち場に戻ると
年長の先輩が開口一番言う
「怒られちゃったね」とニヤニヤ
「僕、言ってませんよ」
一纏めにされたことに憮然として返す
「見てなよ、言う奴は絶対に言われるから、絶対だからな」
そう言って残った休み時間を
かき集めるように
濡れタオルを目に当てて
ベンチに横になってしまったので反論を逸した

遊具の動く音と客の笑い声を
聴きながら僕は額から
ゆっくりと汗が滴っても
なんだか拭えなかった

そんな先輩の言葉どおり
言っていた側が言われる側に回るのに
そう時間はかからなかった
本当にそういうものだった

悲しいことにいつの時代も同じだった
人を見下して気分が良くなる
そんな口しか持ち合わせていない人を
よく見かける

こんな卑下た人間にはなりたくはない
と思えるようになれたこと
それには十分な経験だった