100%な朝を迎える方法

何気ない毎日の 何気ない出来事に

「夏至」

ある夕方のこと
隣の家に住む同級生の女の子と
家の前でドッジボール
投げ合っている
どちらも無言で 延々と

なんでそうなったかは
思い出せない
ただ ボールの
アスファルトを弾む音だけが
少しずつ 少しずつ
見えなくなってくる景色だけが
記憶にずっとひっかかっている

真っ暗になって家に帰ってきて
時計の時刻が
7時をとっくに過ぎていることを知る
夏の昼って随分長いんだなって
感じた

夏の一番昼間の長い日って
どれくらいまで明るいんだっけ
そう思う時 
いつもこの光景が思い出される
そして時間の流れって早いんだなって
いつも思う

「瞬間」

たまに趣味で写真を撮る

このデジタルな世の中にあって
今でも
35mmのフィルムを使っている
もちろんデジタルカメラ
携帯電話に納めるのもいいが
いい絵だけを残して悪い絵を消してしまうことに
やたらめったらと撮ってしまう作業に
ためらいを感じてしまう

瞬間、瞬間を掴みたいのだ
露出を絞り
焦点を合わせ
その時に流れる風を
体に巻きつく温度を
漂う香りを
その人の心を
自分の想いを
ファインダー先の空間に込めて
切り取る 
今だ、と思う瞬間を
フィルムに閉じ込める
たとえそれが
駄作であったとしても 
それはそれでとても
尊い

「死んだとき棺に入れてもらうから、写真撮らせて」

仲の良かった写真好きの隣人
引越すまで残り数日となったある日の午後
そのお婆さんから頼まれた

その切ない願いに 
せめていい顔をしようと努めた

頬を上げて
目を笑って
口元を自然に
作っては緩め、作っては緩め…

ところがシャッターは
なかなか押されなかった
3度目を緩めたとき 
突然その瞬間は切り取られた

20xx年1月19日午後12時38分
後にも先にもその一瞬しかない 
とてもとても尊い時間

困惑したような
申し訳ないような
そんななさけない自分が 
きっとその中には収められている

「恩返し」

「なぁ、飯食いにいかねぇか?」
いや、いいっすけど
家でお子さんとか起きて
待ってるんじゃないんですか
ご飯だって作ってるでしょうし

なんてことが、ままある
小遣い三万しか
もらってないくせに
パチンコで勝ってるとか言って
僕、独り身なもんでちゃんと
払いますよ
と言っても譲らない

いつかお前が部下を持った時に
奢ればいいよ って


部下と飲んで財布の中を見て
とほほ、と思う
小遣い三万とほほと思う
でも、胸を張って同じ台詞を吐く

それが引き継がれれば
きっとそれが、恩返し

「雑誌」

家に帰ると
煩雑に転がる雑誌類に紛れて
結婚情報誌がひっそり置いてある

“プレッシャーかけやがって”

付き合う前は
お互い三十過ぎて独り身だったら
結婚しような、などと
ありがちな冗談を
言い合っていたのに
同棲しだして早々に
まだかまだかと
追い討ちをかける
そんじゃ、この状態で
一年過ごすことができたらな、と
様子見を盾に先延ばしていたら
あっという間に
一年過ぎてしまった

ああ、三十まではまだあるぞと
約束などはそれこそが冗談で
パラパラとめくっては
覚悟の置き場を決めかね決めかね
唸りながら部屋をうろつくばかり

「誰かがこれを」

なにげない言葉が
ずっと耳に残ることがある

先日、送別会が組まれたが
諸事情で少しおとなしめの
メンバーに偏ってしまった
つまり、盛り上げ役がいない

そんなことをある奴と
喫煙所で話していると彼が
こんなことを言うのだ
“誰かががこれをやらねばならぬ”
宇宙戦艦ヤマトの唄にあるように
自分がやるしかないでしょう って

言葉どおり彼は汚れ役に徹し
場を盛り上げた
たかが飲み会、だが
決して誰もができるものではない

それ以来私の耳に残っている

オフィスに落ちているテッシュ
溢れている傘袋
会社の前の吸い殻
そんなものを目にした時に
思うのだ
“誰かがこれをやらねばならぬ”
そう思うと手が汚れて躊躇するものにも手をかけてしまう

停滞して誰もが発しなくなった
会議の場で思うのだ
“誰かがこれをやらねばならぬ”
そう思うと無理にでも打開できる可能性のある
何か言葉を放たなければと思う

誰かがやってくれるのを
待つのではなく
“誰かがこれをやらねばならぬ”
いつ何時であっても
自分がそうでありたい と思えた

「おもり」

祖母が生後間もない孫を抱いた

手慣れた手つきを披露してみせる
若い夫婦とは年季が違うのだよと
得意げに

しかし残念ながら
実の母には敵わないのだ
これは仕方がないことなのだ

ちょっとずつ、ちょっとずつ
腕の中の孫がぐずり出す
どうか気づかないでくれ
きっかけを作ってするりと移す

十分知ってますよ
ここにできている人の輪は
貴女がずっと頑張って生きてきた
その先にある世界なんですから