100%な朝を迎える方法

平凡な毎日の何気ない出来事を切り取っていく

2022-01-01から1ヶ月間の記事一覧

「媚び」

会社に居座っている人慣れした猫が俺を見て一瞬警戒して恐る恐る腹を見せる俺はお前の敵か味方かわかんねぇぞ 他人のエゴに振り回されて人の機嫌に右往左往して一人で職場で黙々と残業してその残業代も控えめ抑えて目立たないようにいい人ぶってみて その柔…

「おこない」

クラスにあまり経済的に裕福でない女生徒がいた服装、持ち物、弁当あらゆる部分に嫌でもそれが見て取れ男子はあからさまに冷やかすが良かれと思ってやっている女子の行動も十分残酷なことだったりもした十代の前半という誰もが正解を探す事が困難な時期でも…

「香水」

彼女はグッチのエンヴィという香水が好きだったが俺はどうにも苦手だった彼女とてそれがいい匂いだからと愛用していたわけではないブランド志向の高い彼女にとって「グッチ」だから「いい匂い」なのだ そのグッチの鋭い香水の匂いには常々辟易させられていた…

「転校」

転校してすぐに二人の同級生が遊びに来ないかって声をかけてくれた遊びに行った同級生の家は二間しか無い平家でそこでそこそこ身体の大きくなった六年生三人がバタバタと暴れてそれはそれは楽しかった誰も知らない土地で新しい友達と遊べたことが楽しかった …

「雷雨」

突然降り出した雷雨にしのげる場所をどうにか見つけ濡れた肩袖を拭っていると後ろから声をかけられた入社当時一緒に仕事をしていた先輩だった 二、三年一緒に働いて転勤の後すぐに辞めたと聞いたそれきり会っていないもう十年も、いやもっと前の話だよく声を…

「秘密基地」

小さな小屋を見つけた 友人と川に行く途中に雑草にまみれてポツンと佇んでいたなんに使われていたのか今までもあったのか恐る恐る中に入るがニスの匂いのするがらんとした空間は子供心を存分にくすぐった 見知らぬ下級の子が上級の人がその小屋に引き寄せら…

「感謝」

その高齢の女性の口癖は「感謝、感謝」だった 何かをしてあげると「感謝、感謝」食べ物を食べる時も「感謝、感謝」歩いている時でさえ「感謝、感謝」あんまりたくさん言うものだから周りの人もつい可笑しくなって言い方を真似てその方に返す「感謝、感謝」っ…

「そっぽを」

地元の高校を受験することになった 中堅の公立高だったから自分達の中学から四十人近くも出願した 四十人全員で高校に願書を出しに行く際クラス委員をやっていたこともあって僕が取りまとめを任された 校門に入ったら会う人には愛想良く挨拶した方がいいとか…

「畑を耕す」

車での通勤途中に左右を広大な畑に挟まれた長くて真っ直ぐな一本道がある片道一車線、信号も無く車通りも少ないこの開放的な道では飛ばし屋でなくともいささかアクセルを強く踏みたくなる その日の朝も快調に走っていると反対車線はるか前方の畑の畦道から幌…

「あるべき場所」

となりの家は空き家になっている子供たちが家を出て定年をとうに過ぎた老夫婦だけになったことを機に駅前に住む親戚の暮らす家に移ったのがもう数年前のことたまにその老夫婦が旧家を訪れては庭の手入れに来ているのを目にし道で蜂合えば挨拶も交わす 元気そ…

「昔馴染み」

病院の受付に二人組の老人が声をかける二人とも高齢だが年齢の割には背筋も伸びて身だしなみもしっかりしたオシャレな紳士だ ハンチングを被った方が尋ねる「K田A子さんの病室はどこですか」しかし受付の女性がパソコンで検索しても名前さえヒットしない「入…

「英語の先生」

小学生の時 家の前の平家に若い女の先生が住んでいた近所の私立高校の英語科の専攻でせっかく近くにいい教材があるのを使わない手はないくらいに母が隣家の同級生の母親と共謀しお金を払うから是非うちの子達に英語の基礎を教えて欲しいと頼み込んだ先生は断…

「ファイト」

遠い昔、親父がラジオで流れてきた中島みゆきの「ファイト!」を俺、この歌好きなんだよねってしみじみ言ってた 学生だった私はへーそんなもんか ぐらいに思っていた 先日テレビで流れたその曲を聴いて目頭が熱くなる何故か?別に何かひとつの目標に向かって…

「サボり」

すこしサボりたくなってきたなんだかサボりたくなってきたどうしてもサボりたくなってきた 今日はサボりたいサボってみたい時間が経つごとにふつふつとその想いが強くなってついに決行することにしたのだ授業が六時間目まであってそのあと委員会があってその…

「ブラウン管」

ある日リビングのテレビの色調がやたらと焦げている事に気づいて買い換える事にした ずいぶん前に買ったそれは重さばかりある21型のブラウン管で十分大きいな と思っていたのに店先ではやや見劣りするほどの控えめなサイズの買ってきたそれはその位置に据え…

「バスを待つ」

初詣に向かう大きな神社までは 最寄の駅からバスに乗る 着いた時並びはそこそこ長かったが バスは次から次へやってくるので このバスに立ってまで 乗る必要もなかろうと ひとつやり過ごすことにして 次のバス用の列に並んだ 私達はその列では二番目だった 車…

「雪合戦」

スノーブーツが埋まるほどの雪道を僕らは歩いて帰っていく 空は数日間ずっと曇天で雪国特有の大粒なボタン雪が絶えず地上に降りてきていた 数十メート先にクラスの女の子が二人歩いていていたずら心に丸めた雪を投げつけた 彼女達も笑ってそれに対抗するラン…

「画面の向こう」

数ヶ月前に会社を辞めた奴がネット上に動画をあげていると同僚が教えてくれた とにかく酒癖が悪くってそうなるとすごく面倒くさい奴だったどうやらこれで食っていこうとしているらしい いくつかの動画をあげていたがそのどれもありがちなものでそれほどクオ…

「霜焼けとあかぎれ」

冷凍庫の中で 野菜を捌く仕事をしている妻の両手の指が ひどく霜焼けて膨らんでいる この冬、食器を洗うのは私の日課になった ある日、今度は手のあちこちがあかぎれて 血が滲んでいる ハンドクリームを丁寧に塗ってやった 若い頃は爪にネイリングを施して …

「都会の雪」

関東で昨夜から降り続ける大雪は平日の朝のラッシュを案の定大混乱にした電車はダイヤを大きく乱してノロノロとやってはくるがどれもこれもが満杯で開いたドアにはほとんど人が乗り込めない次々とコンコースから人が降りてきてホームに並ぶ人の列が前へ前へ…

「心模様」

闇ですっかり包まれてしまったプラットホームに電車が到着して多くの人が吸い込まれていく高校生の彼氏だけが乗り込んで眼鏡の小柄な彼女はその流れから離れていったバイバイ、と挨拶したきり彼は向こう側の窓に向いたまま 振り向いてあげればいいのになと横…

「成人式」

その昔成人式は必ず十五日で彼にもそんな日を迎えられる年があった 夜も明けきれぬ凍て付く寒さの中リビングに下りると既に部屋は温もっていてTVが朝一番のニュースを報じストーブ上のやかんが静かにちんちんと湯気の音を立てていた その中に父と母がコタ…

はじまりの扉

目が覚めるといつも憂鬱だった 真っ先に浮かぶのは今日のイメージで やらなければならない事を 付き合わなければならない嫌な奴の顔を そして昨日も今日も明日も 判を押したような同じ日が続いて 明後日には忘れているような一日を過ごして 深いため息をつき…