「成人式」
その昔成人式は必ず十五日で
彼にもそんな日を迎えられる年があった
夜も明けきれぬ凍て付く寒さの中
リビングに下りると
既に部屋は温もっていて
TVが朝一番のニュースを報じ
ストーブ上のやかんが静かにちんちんと
湯気の音を立てていた
その中に父と母がコタツに
二人小さくなって座っていた
彼は対面に座り本を見ることなく眺め
朝食をとった
父も母も極力無言だった
定刻となった時
ノートと本と昼食でパンパンになった
カバンを肩に掛け
おもむろに彼は振り向いてこう言った
「あのさ、僕ね、乗り物なんでも乗れるフリーパス券を持っているんだけどそれを持っていると、なんとモノレールにものれーる」
勘のいい母はすぐに察し
「モノレールにも、のれーるのね」と
甲高い声で笑った
父は「なんだ、お前そんなもん持っているのか?」
と真顔で言った
「じゃ… 行ってくる」
「頑張ってこいよ」
「頑張ってね」
TVではちょうど天気予報に先立ち
今日行われる予定の
大学センター試験の話題を伝えていた
自分で蒔いた種 自分で選んだ道
でも
親不孝者だな、って
思わないわけにはいかなかった