100%な朝を迎える方法

平凡な毎日の何気ない出来事を切り取っていく

2022-05-01から1ヶ月間の記事一覧

「誰が」

幼馴染の家の両親はいつも喧嘩をしていた縁側で遊んでいると中から母親の金切り声が聞こえ程なくして車で出て行き 静かになった部屋で父親がうなだれていたそんな様子を彼は何度も見て居心地を悪くしていたが幼馴染は意に関せずにまた彼と遊ぶため家に誘うの…

「蝉時雨」

蝉の時雨に誘われて昼休みに表に出ると放射熱がすごかった休みのはずの幼稚園で賑やかな声がこだましている庭園の壁に抜け殻がひとつカサカサに乾いたその主はきっと隣の木の上で今、激しく鳴いてるそれだろううだる暑さが風で和らいでいくでも燻らす煙草は …

「電話」

電話のベルが鳴ったもう小学生の中学年ではあったが物音ひとつしない家で突然鳴り響いたそのまだ不慣れな機械に慄いたさんざん迷ったあげく6コール目で受話器を取る “はい、Sです。”“Nと申しますが、T君居ますか?”“はい?” 聞き返す“Nと申しますが、T君…

「夢を見た」

すごくいい夢を見た心地よくて気持ちよくて久しぶりに良い目覚めだった いつもは、これは平日も休みの日も同じだけど起きがけにはその日のことをこの先のことを考えて憂鬱な気持ちにあっという間に支配されるのに今朝はそんな気持ちも隅に追いやられたなるべ…

「呟き」

中3の秋も深まった体育の授業に年末まで続く種目はバレーボールだったとは言え技術などはもう教わらない受験生の息抜きにとチーム対抗でリーグ形式で試合をやらせてくれるのだそれは勉強で締め上げられている僕らにとってたまらなく楽しい時間になるはずだっ…

「名前」

ありきたりな苗字だからそれもあって声をかけられた時それが自分のことだと気づかなかったコピー機に同時に近づいて席が近いからまた来ると言って譲ったずっと前少しだけ仕事をしただけで今はほとんど顔を合わすこともないなのに名前を覚えてくれていてあい…

「百円のこと」

何気なく尻ポケットを触ると100円玉が出てきた 彼は二人の娘を呼んで裏か表かを選ばせ硬貨を指で弾いた硬貨は宙を回転し表を上にして手に収まった表を選んだ姉にその硬貨をあげた ちょっとした余興のつもりであったがそれに嫉妬した妹がズルをしたと激しく抗…

「終わりの景色」

高校の生物室に僕のマウンドがある生物部の活動に飽きてしまうとスーパーボールを取り出し一定の距離を空けて引き出しに向かってボールを投げる 一番上の引き出しから下から二番目の引き出しまでがストライクゾーンそこにキャッチャーの残像を映し出す引き出…

「ついうっかり」

朝、満員電車に揺られていたいつものように人が出たり入ったり混んだり空いたりして窓の外を見てあぁ、いい天気だなぁなんて今日の講義は1時限だけで今の時間だとギリギリ間に合ってきっとぼーっとして授業を聞いて落書きとかノートにして早く終わらないか…

「空白」

「お前は勝ち組だな」二十数年振りの中学の同窓会でそんなことを言われた何をもって、俺が勝ち組なものか そいつは地元では有数の進学校に進んでラグビーをしていた僕は地元の平凡な高校で無目的に時間ばかり潰していた 浪人時代にたまたま予備校で再会して…

「せいぜい」

その古い写真に写る少年は額にHと記されている阪急ブレーブスの帽子を被っている 彼は一時期その帽子を被って通学していたプロ野球全盛期で多くの少年が人気のセリーグのチーム帽子を愛用していたが野球に疎い家庭の下育った彼は興味をそんなに持ってなかっ…

「夏至」

ある夕方のこと隣の家に住む同級生の女の子と家の前でドッジボールを投げ合っているどちらも無言で 延々と なんでそうなったかは思い出せないただ ボールのアスファルトを弾む音だけが少しずつ 少しずつ見えなくなってくる景色だけが記憶にずっとひっかかっ…

「瞬間」

たまに趣味で写真を撮る このデジタルな世の中にあって今でも35mmのフィルムを使っているもちろんデジタルカメラや携帯電話に納めるのもいいがいい絵だけを残して悪い絵を消してしまうことにやたらめったらと撮ってしまう作業にためらいを感じてしまう 瞬…

「恩返し」

「なぁ、飯食いにいかねぇか?」いや、いいっすけど家でお子さんとか起きて待ってるんじゃないんですかご飯だって作ってるでしょうし なんてことが、ままある小遣い三万しかもらってないくせにパチンコで勝ってるとか言って僕、独り身なもんでちゃんと払いま…

「明かりが灯る線路の側道」

雨が止んで 少し 唄った

「雑誌」

家に帰ると煩雑に転がる雑誌類に紛れて結婚情報誌がひっそり置いてある “プレッシャーかけやがって” 付き合う前はお互い三十過ぎて独り身だったら結婚しような、などとありがちな冗談を言い合っていたのに同棲しだして早々にまだかまだかと追い討ちをかける…

「誰かがこれを」

なにげない言葉がずっと耳に残ることがある 先日、送別会が組まれたが諸事情で少しおとなしめのメンバーに偏ってしまったつまり、盛り上げ役がいない そんなことをある奴と喫煙所で話していると彼がこんなことを言うのだ“誰かががこれをやらねばならぬ”宇宙…

「おもり」

祖母が生後間もない孫を抱いた 手慣れた手つきを披露してみせる若い夫婦とは年季が違うのだよと得意げに しかし残念ながら実の母には敵わないのだこれは仕方がないことなのだ ちょっとずつ、ちょっとずつ腕の中の孫がぐずり出すどうか気づかないでくれきっか…

「憩い」

このご時世で駅前のたばこ屋にある喫煙コーナーは愛煙家にはとても助かる 出勤前に一服今日もだるいなと毎朝会う見知らぬ同志と心を交わし 退社後も電車に乗る前にそこで立ち止まっては会社の同僚と出くわし今日の労をねぎらいあう 結構遅くまで営業している…

「静寂」

かむばしく鳴き続ける蝉の声と少しだけ涼しいそよ風が街灯にほのかに照らされて心地よいばかりの夏の夜彼女は灯りのたもとに両手を差し伸べ応えるように彼はそのたもとの元に片手を差し出した何も聞こえず何もしゃべらずただ蝉の声だけがその周りをかこんで…

「ゆらゆら」

初冬の夕日がきらきらと照りつける水面を眺めてすごく綺麗だと思った 行き交う遊泳者の水飛沫に揺られてゆらゆらと光る場所まで深く潜って視界が白む でも その瞬間はとっても束の間で水から上がるともう闇が窓の外を支配していた

「いつまでも」

いつまでも続く日々と思っていた 父子家庭の家だったでも、一人娘との仲は極めて良かったもういい歳なのに季節を駆け巡って出て歩き天気が悪ければカラオケ腹が減ればラーメンを啜りに見たい映画があればポップコーンを共有した そんな彼女も高校受験を迎え…

「夏の檻」

仕事をさぼり建物の影に隠れて一服している基地から飛んできた輸送機が 轟音を鳴らしながら過ぎ去るとひときわ蝉の声が騒がしくなった まとわる湿気にため息ついてはシャドーピッチングを繰り返す見えないボールはビルに切り取られた青い青い空に吸い込まれ…

「後ろ姿」

横浜から二、三駅先の郊外に彼の一番最初に住んだ家がある写真でしか見たことがない小さなボロいアパートで生後一年も住んでいなかったからもちろん覚えているわけでもない 二十歳を間近に控えた彼は原点を見にいってみようと思う、と母に伝え駅からアパート…

「唐揚げ」

カレーに唐揚げが乗っていた 学生の頃片道2時間半の通学電車にほぼ毎日朝から夜までの授業日曜に入るバイトだけが唯一の資金源だったあの日々その雀の泪もほとほと消えるそして昼メシに捻出する金が特になかったことを覚えている ある日は仲間の輪から静かに…

「ソファー」

自分はちっとも悪くないってそう、思っていた 妻と話をしなくなってからもう一年以上も経つ玄関で会っても階段ですれ違ってもお互い目を合わすこともない私は家族のためにただ金を運び彼女は家庭のためにただ家事をした リビングにはソファーが据えてあって…

「高熱」

すごく居心地の悪い場所でとても悪い気分でイライラしながらずっとずっと書類を数えている朝起きるととうに起床の時間を過ぎていて慌てて身支度をし始めている何か訳のわからないものに急き立てられて複雑な作業を繰り返している ひどい寝汗と絶え間ない頭痛…

「ことばの魔法」

あの時褒めてくれて嬉しかった と、今日会社を辞める彼女が、最後の挨拶に来て僕にそう言って去っていった お客さんと接している姿を見て僕はただ単純に純粋に彼女のその応対の上手さに感銘を受けて、思わず”応対が上手くなりましたね”と言ったのだそれはも…

「救命」

暗闇を掻き分けて救急車が到着する 酩酊状態で1m下のコンクリートに近所の旦那が頭から落ちたのだどこからかかなりの出血があって 一時車内で心肺停止状態になった 何てことない幼稚園のママさん仲間の宅飲み会だった3時位から飲んでいたらしく嫁に誘われて…

「右手のこと」

祖母が写る写真はどれも左手で右手を包んでいる祖母の右手は野口英世のように指が癒着しているのだ事情は良く知らない はるか遠方に住んでいたから共有できた時間は短く記憶は少ないがその割には器用に箸を使い食事をとりテキパキ家事をこなし綺麗に裁縫をし…