100%な朝を迎える方法

平凡な毎日の何気ない出来事を切り取っていく

「先輩」

広い背中に太めのボンタンが
良く似合っていた
ひとつ上の部活のヒロ先輩は
何人もいる怖い先輩の1人であったが
カリスマ性があった

そのひとつにヒロ先輩には彼女がいて
それを僕らに隠しもせず見せてくる

僕ら一年生は部の伝統として
帰りに校門に並んで先輩全員が帰るまで
お見送りをしなければならなかった
先輩が通るたび「さようなら」と
大きな声で挨拶するのだ
一部の先生が暴力団みたいだから止めろと
僕らに行ったが
そんなことは僕らに言われても困る

ある日ヒロ先輩がいつものように
フラフラと校門を通って僕らは挨拶した
少し過ぎたあたりで後ろを振り返る
下駄箱で彼女が出てくるところだった
すると先輩は彼女に向かって
手のひらを上にした手招きで彼女を呼んだ
こいよ、みたいな
嬉しそうに彼女が走って先輩の隣に並んで
帰っていくのを僕らは阿保みたいに眺めた

それで、もう聞こえない距離になって僕らは
色めきだった 仕草を真似て
「これもんだよ!」って
「これもんだよ!」って

僕らは事あるごとに「一年!」と怒鳴られた
挨拶が小さいと、集まりが遅いと、
走るのにへばると、プレーが悪いと
かっこよさなんて微塵もなかった
いつかはあんな先輩になりたいって
みんな心の中で思っていた
リーゼントみたいな髪型も、革靴も、
ボンタンも、裏ボタンも、連れの彼女も
かっこよかった
後輩からこれもんだよ、これもんだよって
言われる日が来るのだろうかって

僕らは次の日もその次の日も
ボールを磨き、床を拭いた 
そんな奴隷のような僕らの夢