100%な朝を迎える方法

平凡な毎日の何気ない出来事を切り取っていく

2022-04-01から1ヶ月間の記事一覧

「占い」

湯船に浸かってボーっと椅子の雫を眺めていた滴れずにその場で気化してしまうかもしれない微妙な大きさの雫この雫に自分を委ねてみるもしこの雫が床まで滴れたら辞めることにしよう 瞬きもせずじっと息を潜めるもしこの雫が床まで滴れたら辞めることにしよう…

「回帰」

就職して一年後の春に田舎の親元を離れて一人暮らしを始めた 七畳のワンルームにロフト付き バストイレ別 駅から四分 家賃六万四千円 以前から好きだった街で少し贅沢な生活を始めた ロフトの窓から見える立ち並ぶビルに興奮しそしてやっと自立できた気がし…

「裏手の路地」

研修で赴いた街を歩いていて歩いていて、記憶が呼び戻るこの道の裏手に寮がある彼女が住んでいた寮があるそれは幾度も幾度も通った道で 向かう前に地図で調べた時にはああ、あそこか と思う程度だったのにいざ歩いてみると脳の底の底にすっかり沈んでいたい…

「夕立の空」

夏の夕立に駆け込んだ軒先で突然に奴の事を思い出す 恋に空回りし出世で後輩に次々と追い抜かれ人間関係は安定性を欠いたまま精神は悩みの中で徐々に裂けていき不器用に日々を生きてきた彼は 初夏の連休も終わりの頃ああ、明日も休日出勤面倒くさいなぁ…と眠…

「傍観者」

お前はいつもそうだステージに立つ人間をステージ下で傍観するああ、成長したな とか変わったなぁ とかよくやるよ とか第三者を気取って評論じみたことを言う じゃあお前もどうだ と勧めると急に苦笑いをしてあれこれ理由を探し出してへなへな断るのが関の山…

「御用のない人」

ホームで各駅停車を待っているが隣のホームの急行電車がなかなか発車しない 車両の中央にある赤いランプが眩しく灯る扉のすぐ傍に頼りなく立っているひどく太った親父が立ち上がってはまたよろよろとしゃがんで周りのサラリーマン達が倒れないように手を預け…

「ケセラセラ」

「もしかして緊張してます?」 「ええ・・かなり」 「大丈夫ですよ、なるようにしかならないんですから」 なんて素晴らしい言葉なんだろう 簡単な業務であったが責任者として初めて一人立ちしたときの出来事 責務に圧されあらゆるトラブルをシミュレーションを繰り…

「姿なき者」

ずいぶんと失礼な言い方をする奴だ メールで来た業者からの依頼文を見て軽く憤るメールの主は面識があるがその書いてある内容は裏にいる技術屋のそれだこちらが違うデータを間違えて送ったのはたしかに非があるだが、それに対して「このデータはどこに紐つけ…

「失踪または」

終業直後に手元の電話が鳴る「Hはどうしたか知ってるか?」他支店の先輩から唐突にそんな連絡もう会社に“いない”のではないかとのことHとはこれまた他支店の同業種の人間のことだ奇しくも学校の後輩でその縁で十年以上もの長い付き合いをしている 本部管理…

「向日葵」

毎年夏になると駅前にでっかい向日葵が何十本も植えられる 太くて大きく堂々として力強く太陽に対峙してみせるそれは毎朝重い足を引きずって会社に向かうサラリーマンをだるい足取りで学校に向かう学生をちょっとだけ元気づける大いに頑張るぞなんてことはな…

「割に合わない」

夏に引越しのバイトなんかずいぶんとニーズの無いものを選んだものだいつまで経っても依頼の電話がやって来ない今日は居ても立っても居られなくてわざわざ事務所まで足を運んだなんだって1時間もかかる場所交通費も出ない仕事などとふつふつと思うただ日払…

「ほんの些細な」

風呂に入っていると洗面所の電気が灯った誰か帰ってきて手を洗ってんだなと思って「誰ぇ?」って声をかけたが返事がない仕方なしに湯船から身を乗り出して扉を開けはなつと鏡越しに学校のジャージ姿の娘と目が合うイーっ、と睨まれて扉が乱暴に閉められた 手…

「モニター越しの風景」

時計が八時を回る頃階下のチャイムが鳴った 二回目の音を聞きながら下へ降りると困惑した妻の顔 出てと顎で促されてモニター越しの四十代位の男性に声をかけた 「A新聞ですけど、Y新聞の契約三月までですよね。どうかお願いしたいんですけど・・」 妻が私…

「火の粉」

二泊三日の林間学校は最後に各組ごとに練習してきた歌をうたっていくキャンプファイヤーで締めくくられる 赤い炎が優雅に燃えて透き通った声が夜空に消えていく星が綺麗に見える最後の夜 赤い光の端に腕組みをして立っている女性2組の若い女性の担任はプライ…

「母の視点」

四六時中ずっと一緒にいた朝起きてから寝るまでいっときも離れることなくもう何年も大変なんてもんではなかったでも、もうなんでも知っている内弁慶で寂しがりやな愛おしい子そんな頼りない子が今日初めて手を離れるそうやって親も子も少しづつ成長する “い…

「素のすがた」

商売女が営業的笑みで接してきても話しているうちわずかに垣間見える素の姿が好きだ それは別に裏の顔などという邪な物ではなくその人の生きた人生これまでに刻んできた軌跡そういったものがほんとうに、ほんとうに一瞬顔の表面に出てくる それを見逃さない…

「大嫌い」

大嫌いな学校だった望んで入ったとこで無いことに加え無学無気力無目的見える何もが嫌だった制服は帰るや否やすぐ脱ぎ捨てた友達もほとんど作らなかった写真は三年間ほとんど撮ってない早く時が過ぎればいいといつも思って過ごしていたあの日々に ある春の午…

「棲家」

「九万四千円か…高ぇなぁ…」不動産屋の外の貼り紙を丁寧に眺めてはひとりごちる 今の一人暮らしの家の更新に合わせてより会社の近くに住みたいなと軽く口にしてしまったら彼女に同棲を提案されてしまった すっかり気の進まないまま日曜の昼下がりに手を引か…

「中古品」

昔、ひと回り年の離れた上司とカラオケに行ってその上司が古い歌ばかり唄うもんだからちょっとうんざりしてしまった その上司と同じくらいの年になって同世代で唄いに行った時なるほどって思った みんな学生くらいの時に流行った曲ばかりを選ぶのだ懐かしい…

「息苦しさ」

幼馴染の家に久しぶりに行った同じ高校に入ったのにつるむ仲間が変わってずいぶんと疎遠になってしまった昔はいつも遊んでいたのにさ 奴らは整髪料の匂いを振り撒き煙草を薫せながらリリース日に買った流行りのCDを流しつつベースを掻き鳴らしていた なんだ…

「懺悔」

今日、ついにあのチームが優勝するかもしれない!チケットは取った時間も大丈夫後は家にいる産まれたばかりの子供を抱えた妻への説得をでも何を言ったって快くは承諾されるはずもない「いいよね、あなたは…」などと白い目で見られるのが関の山だもちろんわか…

「おわかれ」

「いろいろありがとね」去り際に奴は言ったパソコンの指を止めずに俺は「十年後にはお互いビックだぜ」なんておちゃらけた言葉で返した「なれるかな・・」それなのに奴はそっぽを向いて鼻を掻いた ずっと一緒に仕事をしていたあいつがやりたい事を見つけて今…

「安堵」

休みの前日のこと昨日のそれと別に変わりはないがいやノンキに甚平でふらつくおやじが 自転車を押しながら談笑するカップルが 駅で人待ちをする数人の若造が そういった何気ない様相が明日は休みだという解放感に街角の端々に見え隠れしていつもよりちょっと…

「指揮者」

母親の部屋の大きな三面鏡の前ステージが始まるみんなの顔を想像して少し笑って見せる大丈夫、楽しくやろうよ 別にやりたくてやっているわけではない秋も深まる受験の最中に担がれた感があるのは否めない 僕が右手を振り上げる同級生が肩幅に一斉に足を揃え…

「8ミリフィルム」

カタカタと音が鳴り続けフィルムが機械に入っていく白い壁に荒い画像が映し出され子供の自分が動いている終活の身辺整理として実家に帰るたびそのようなものが転がっている 木の匂いのする真新しい家ではしゃぐ 僕華やかに装飾された運動会で必死に走る 俺大…

「猫」

家を出る寸前で嫁に呼び止められたサッシの向こう二軒先の家の出窓に三毛猫がじっとこちらを見て佇んでいるほらいたでしょ、とご満悦の様子 数日前その出窓に置物のように動かない猫がいると嫁が騒いでいた家中どうでも良いと思っていたがあまりに動かなかっ…

「マジック」

冬休みの最初の日 その日はクリスマス会が近所の公民館で開催されるのがこの町内の慣例だった 今年は通学班ごとに披露する出し物に手品を一人ずつすることになった彼は市販で売っていた机に立つトランプの芸をすることにしたが三つ下の弟のネタが前日まで決…

「笑い」

乗客のまばらな昼下がりを電車は走っていく 座席にもたれて目的地までの長い道のりを数えているとある駅で長身の中年男性が乗り込んできてはす向かいに立った 持っていた紙袋を網棚に乗せつり革につかまるところが電車が動き出して暫くするとその紙袋から茶…

「桜の渦」

中間管理職というザ•サラリーマンに彼はなっていた若い頃はこんな大人にはなりたくないなと思っていたのに 彼はなっていた上には頭を押さえられ下には突き上げられ誰かと話せば仕事の要求や文句でもう話すことも嫌になってしまったやってもやっても仕事が増…

「慟哭」

25年ぶりの同級生との会話は楽しい思い出話から一転死んだ友人の話になった その友人と野球のクラブチームでバッテリーを組んでいた同級生はその思い出深い友とのあの日を語り出す 中学生になったある日放課後サッカーをしていて突然友は倒れた 騒然とした空…