100%な朝を迎える方法

平凡な毎日の何気ない出来事を切り取っていく

「笑い」

乗客のまばらな
昼下がりを電車は走っていく

座席にもたれて目的地までの
長い道のりを数えていると
ある駅で長身の中年男性が
乗り込んできて
はす向かいに立った

持っていた紙袋を網棚に乗せ
つり革につかまる
ところが電車が動き出して
暫くすると
その紙袋から茶色い液体が滴って
真下に座っている若い二人組みの
女性のひとりの服を
汚してしまった

これは大変なことになった
当然女性は怒り出す
長身の男性もすぐ謝るが
当然口だけで
済むものでもないだろう

ああ、嫌だなぁこういうの…
落とし所がないじゃないか
そう思ってイヤホンをつけ
たぬき寝入りを装い眼を閉じるも
ものの数分で心は引っ張られ
意思に反して眼が開いた
すると三人はなぜか談笑している
長身の男性の喋ることに屈託無く
二人の女性は笑っているのだ

これは一体どういうことだ
イヤホンを外し彼らを凝視するが
その転換期は
もう捕まえられなかった

ただ、
そのきっかけが「笑い」であった
それは確かなようだった

そんな雰囲気を
手助けしたのか知らないが
海沿いの線路を
潮の匂いを吹き込みながら
穏やかに電車は走っていく