100%な朝を迎える方法

平凡な毎日の何気ない出来事を切り取っていく

「桜の渦」

中間管理職という
ザ•サラリーマンに彼はなっていた
若い頃はこんな大人にはなりたくないなと
思っていたのに 彼はなっていた
上には頭を押さえられ下には突き上げられ
誰かと話せば仕事の要求や文句で
もう話すことも嫌になってしまった
やってもやっても仕事が増えて
いつまでたっても先に進まなくて
自信が次々と削がれていって

ああ、もういいや って

そんな暖かい春の午後
彼は入社以来初めて体調不良と偽って早退した

家に帰ったってどうせ嫌なことが
頭の中を巡るだけ
逆の線に乗って知らない駅を歩いてみた
表通りの少しはずれに桜並木が遠くに見えて
つい、ふらふらと引き寄せられると
川沿いに並ぶ桜の木々が満開で出迎えてくれた

併設された公園に
平日なのに出店まで出ていて
小さな子供を連れたママさん達
一人でぼーっとベンチに座っている老人
SNSにあげるだろう自撮りをしてる学生
彼もその中に紛れて石畳に腰を下ろす

仕事をサボって佇むスーツ姿の中年

満開の桜が少しづつ散って舞う花びらに思う
きれいだなぁ
口にしたらなんだか分からないけれど
視界が滲んできた

風で桃色の渦が目の前を通り過ぎて
揺れる川面を綺麗に綺麗に埋めていく