100%な朝を迎える方法

平凡な毎日の何気ない出来事を切り取っていく

「イヤホンをつければ」

彼は感受性が生まれつき強かった
いろんなことに気を使い
顔色を伺い 気を揉み

気づけばいつも自分を殺していて
ついには何も、自分には無くなっていた
意志も目標も願望も理想も
何も無かった

相手の言い分に引っ張られて動き
話しかける人の悩みに共感して
理由もなくどっと疲れがのし掛かる

いつからか
見える景色も聞こえる音にも
もう、耐えられなくなった
頭の中には常にネガティブな思考が
ループしていた

誰とも話したくなかった

視力の悪い彼であるが
車の運転以外は眼鏡をしない

外に出る時には
常にイヤホンをして音を流した
電車の中の話し声
後ろから歩く音
衣擦れさえ神経に触るのだ
だから流れる曲はなんでもよかった

ある日の残業の帰り
ほとほと疲れ果ててしまって
半ば放心して外を歩いていた
つい耳に詰める習慣を忘れるていた

そこでやっと
季節が油蝉から鈴虫に変わっていることに気づいた
額から汗が滴る代わりに二の腕を触ると
ひんやりとつめたかった