100%な朝を迎える方法

平凡な毎日の何気ない出来事を切り取っていく

「失踪または」

終業直後に手元の電話が鳴る
「Hはどうしたか知ってるか?」
他支店の先輩から唐突にそんな連絡
もう会社に“いない”のではないか
とのこと
Hとはこれまた他支店の
同業種の人間のことだ
奇しくも学校の後輩で
その縁で十年以上もの
長い付き合いをしている

本部管理の会社のアドレス検索一覧に
既に名前が無い
気になってその支店のツテに
探りを入れる ツテは生憎帰宅だ
ならば直接本人に
どうしたんですか急に、なんて
なんともなく言って欲しい
しかしながら繋がった電話先は
その部下の女性職員だった

「お休みなんです」
「ああ、そうですかじゃあ休み明けに」
「長期休暇なんです」
「いつまでですか?」
「わかりません」
「体調不良とかですか」
「詳しくは上のものでないとわかりません。でも体調不良ではないです」
「いつからです?」
「先週頭からです」
それで電話は切れた

一何かを隠している 一

Hとやり取りした最後のメールの
記録を漁ってみる
休みとなったその前週には
会話をしている ふつうに

失踪か、事故か、病気か
何にしてもこんなに早く
アドレスのリストは消さない
やはり決して穏やかではない
何かがある

でも、理由はもう、別にいい
少なくとも
もう会社には帰っては来ないのだ
そして
もう会うこともないのだろう
そんな気がして
こんなふうにたまに起こる
仕事という
細いつながりを切なく感じる