100%な朝を迎える方法

平凡な毎日の何気ない出来事を切り取っていく

「棲家」

「九万四千円か…高ぇなぁ…」
不動産屋の外の貼り紙を
丁寧に眺めてはひとりごちる

今の一人暮らしの家の更新に合わせて
より会社の近くに住みたいなと
軽く口にしてしまったら
彼女に同棲を提案されてしまった

すっかり気の進まないまま
日曜の昼下がりに手を引かれ
不動産屋を巡っている
朝からすでに二軒回って
もうくたびれてしまった
三軒目の軒先の物件に
ほどよい折り合いをつけ
実際の家を見て妥協し
ある程度納得できて交渉を進める

手続きをしていくなか店主が
「それで奥様は…」と
当たり前のように口走る
すぐさま
「いやいや、結婚してませんよ」
僕は否定する
「でも結婚…しますよね?」
愛想笑いと共に
屈託無く続けてくる
「いや…その予定は無いのですが…」
あれ、同棲とかではダメな物件か
と訝りながら
声が徐々に小さくなる

店主が別の資料を取りに下がって
やれやれと彼女をみると
嬉しそうにニヤニヤしている
「奥様、だって」と

まぁ、一人暮らしも飽きてきたし
いいのかもなぁ…って
未来を想像してみたりもする