「手紙」

車を買い替えるキッカケで
任意保険の会社を
変えることになった

代理店の年配の主人とは
ずいぶんと
長い付き合いになっていた
最初の契約の時
一人暮らしの家までわざわざ
説明に来てくれて
もてなしもロクに分からない
若僧の差し出した粉の
不味い緑茶を
ずいぶんと美味そうに飲んでいた

それ以降は会ってない
二年に一回更新の時に
電話をくれる
それだけの付き合いだ
ある時、家を買って住所に
アパート名が無くなると
「お家建てたんですか」と喜ばれ
ある時、電話口で
子供の泣き声が漏れて
「あれ、お子さん産まれたんですね」と祝福された
そんなことが十数回繰り返された

解約する事を伝えると
少しばかり残念そうだった
こっちもやっぱり
しんみりくるものがある

届いた手続きの書類には
ずいぶん丁寧な感謝の言葉

たくさんのエピソードを
書き記した手紙を
解約届に付けて返送した
もう結構いい歳のはず
どうかご自愛を、と最後に添えて