「夕立の空」
夏の夕立に駆け込んだ軒先で
突然に奴の事を思い出す
恋に空回りし
出世で後輩に次々と追い抜かれ
人間関係は安定性を欠いたまま
精神は悩みの中で徐々に裂けていき
不器用に日々を生きてきた彼は
初夏の連休も終わりの頃
ああ、明日も休日出勤面倒くさいなぁ…
と眠りについて
そして、次の日の朝は来なかった
二人きりで業務をしていたある日の午後
不意に苦しい顔をして苦悩を語り出したその後輩と
仕事そっちのけで長い長い話をしたこと
その時私は心に届くような言葉を残しただろうかと
後悔ばかりが頭をよぎる
捜索願いが出された三日後に
彼は車内で発見された
周りの誰もがその素行を知らなかった
ひとつひとつが明るみになって
少しづつ渦に引きずり込まれていった彼を
皆が初めて知った
最後に話したのはいつだったろう
奴のはにかんだ笑顔ばかりがやけに
目に焼き付いて離れなかった
そして、何事も無かったかのように
季節は変わって誰もが口にしなくなった
夏の終わり