「裏手の路地」
研修で赴いた街を
歩いていて
歩いていて、記憶が呼び戻る
この道の裏手に寮がある
彼女が住んでいた寮がある
それは幾度も幾度も通った道で
向かう前に地図で調べた時には
ああ、あそこか と
思う程度だったのに
いざ歩いてみると
脳の底の底に
すっかり沈んでいた
いろいろなものが
ありありと滲み出てくる
そんなに遠い場所でもないのにな
そりゃ
理由もなければ降り立つことも
歩くこともない場所で
時間ばかりが、ただ過ぎていった
いろいろ楽しいこともあったのに
手痛く別れた最後の瞬間だけ
やけに鮮明で
裏手の道に近づくと
じっと心が痛んでくる
あんまりいい思い出、ないなぁ
なんてしみじみと口にしながら
十数年も前のことを
ほろ苦くも懐かしんで
夕闇の中を通り過ぎていく