「回帰」
就職して一年後の春に
田舎の親元を離れて一人暮らしを始めた
七畳のワンルームにロフト付き バストイレ別
駅から四分
家賃六万四千円
以前から好きだった街で
少し贅沢な生活を始めた
ロフトの窓から見える
立ち並ぶビルに興奮し
そしてやっと
自立できた気がした
自分で稼いで自分だけで生活する
それだけで心が震えた
ところが
配属が変わり収入が激減して
あっけなく次の更新でそこを
離れなけらばならなくなった
テレビとふとんと
ボストンバックだけの部屋で
最後の夜を明かした時の切なさ
いつかまたこの街に住みたいと願ったが
もう叶うことはないのだろうと
哀しくも感じた
原点がそこにあって
今でもそれを確認するためだけに
車で一時間かけて顔を出す
行きつけの喫茶店で出される
コーヒーは
いつもいつもホロ苦い味がする