「いろいろありがとね」
去り際に奴は言った
パソコンの指を止めずに俺は
「十年後にはお互いビックだぜ」
なんておちゃらけた言葉で返した
「なれるかな・・」
それなのに奴はそっぽを向いて鼻を掻いた
ずっと一緒に
仕事をしていたあいつが
やりたい事を見つけて
今日辞める
なのに俺は仕事に追われすぎて
何も感じなかった
二時間後、帰るとき
誰もいなくなった静かな職場で
奴の空っぽのロッカーを見た
いまさらにたくさんの出来事が溢れ出てきて
今まであって当然だったものが
明日にはないということを
それは嫌でも思い知らせてくれた
そっと手で
半開きの扉を閉じて 部屋を出た