100%な朝を迎える方法

平凡な毎日の何気ない出来事を切り取っていく

「失恋」

夏の終わりにバイト先の後輩が失恋して
カラオケで騒ぎたいと言うので
仕事終わりに
付き合ってやることにした

大して飲めないくせに
景気良くサワーを大量に頼んで
あっという間に正体を無くした

嫌な思いを忘れたくて
歌詞ははてしなくめちゃくちゃで
何かを求めたくて
ずっと、ずっと、がなりたてていた

夜中三時にやっと落ち着いて
外に出たのに夏の熱気がそのままで
俺の家までの暗い道を
一時間かけて歩いて連れていった
暑くてべとついて
頭痛くて吐きそうで
家に着いた時にはもうヘトヘトで

失恋なんか、どうやら忘れたらしい

それでも
朝からまたバイトに行くって言うから
軽く仮眠の後、
駅まで送ってやった

ロータリーから
駅のホームに立っている奴が
朝もやで霞んで見えて
俺は軽く手を振った
奴も手を振り返すと
それと同時に
始発の電車が入ってきて
そのまま見えなくなってしまった

休みの俺はそそくさ帰って眠りについた
そんなまだ携帯もポケベルすらない時代

夏の終わりを待って
就活に本腰を入れるため奴はバイトを辞めた
そして結果として
ホームで見た姿が最後の別れとなった
バイトで四六時中一緒にいた奴なのに
以後会うことは、もうなかったのだ

人との接点なんて案外脆いものだ
だから
強い光が射す時があるのだろうなとも思う

あの時奴ががなりたてた唄を
たまに街中で聴くと
あのしょうもない夜と
駅へ向かう朝もやが
仕方なくも思い出すのだから