100%な朝を迎える方法

平凡な毎日の何気ない出来事を切り取っていく

「六人目」

17歳の時家に子犬が来た
妹が毎日散歩に連れていくらから
どうしても欲しいと両親にせがんで
我が家に初めての動物を迎えた
6人目の家族なので「ロク」と名付けた

黒毛のよちよち歩きの子犬は
こたつの柱にうんこをし
専業主婦だった母のエプロンのポケットに
すっぽり収まってそこから
洗濯物を干すのを眺めていた

1年もしない内に成犬の大きさになったロクは
活発に動くようになった
初めのうちは喜んで散歩に行っていた妹も
めんどくささと学校の予定に押されてサボりがちで
引きこもりの弟が毎日連れて行っていた
その割にはロクのヒエラルキーで彼は一番下だった

夜になると部屋の隅にこしらえた
段ボールのスペースにロクを入れた
毛並みがあまり良くなくてバサバサしているので
僕は家に帰ると上半身裸になってから
ロクをしつこく抱きしめた
はじめは喜んでくれるのだかあまりにしつこいので
途中から歯を剥き出して唸ってくる

ある夏ダイエットのために朝早く起きて
ジョギングをしようと思ってロクを連れて行った
予期せぬ時間の散歩に発狂して喜んで出発したが
あっちこっちで縄張りを作るために止まるので
到底ジョギングにならなくて
僕はイライラし怒鳴り無理矢理ひきずったら
家に着いてひどくよそよそしくなってしまったので
タップリの牛乳を注いで機嫌をなおしてもらった
ジョギングはその日でやめた

犬の寿命は長くても20年程度だから
天寿を全うする時は僕は37歳か、なんて計算した
そんな年なんかはるか先で
永遠に来ないんじゃないかって思っていた

僕は学校を卒業して家を出た
そんなに遠い場所じゃなかったから
ちょくちょく帰ると多少喜んではくれた
でも帰るたび少しずつ年老いて行くのがわかった
片方の唇が垂れたままになって
ちょっとの段差も上がれなくなった
年下だったのに気づけば
ロクは犬年齢ではずいぶん先輩になっていた

ある夏の終わりに母親から留守電をもらった
仕事中で電話を取れなかったけれど
着信履歴を見ただけですぐにわかった
最期は眠るようだったらしい
火葬には立ち会おうと思っていたのに
翌日にはもう焼いてしまって会えなかった
一度だけ墓参りにいった

僕は35歳だった
なんだかあっという間だった

さらに十数年の月日が流れた
実家の庭でロクが掘り起こしたりした跡は
いまだあちこちに残っているけど
人間である家族もみんな年をとった
悲しくなるからもう動物とは住まないらしい