100%な朝を迎える方法

平凡な毎日の何気ない出来事を切り取っていく

「不思議な景色」

祖母に連れられて僕たち家族は
母の実家である地方都市の
ちょっと高そうな料亭に入っていった

腰を落ち着けるかどうかのあたりで
母が奇声をあげている
割烹着を着た店員と何やら声を張り上げて
喜びあっているのだ

興奮冷めらやぬまま
僕たちに女子高時代の同級生なのだと
紹介した
卒業以来の再会らしい
母は高卒で上京し数年の社会経験の後結婚したので
僕の年齢から考えても十数年ぶりなのだろう

そんなことがあって母の機嫌は
終始すこぶる良かった
一通りの食事が終わって
僕は大人たちめんどくさい会話に辟易して
入口の待合室のTVで
たまたまやっていた
アメリカのプロボクサーの防衛戦を
ぼんやり見ていた

すると横からすっとその店員がやってきて
僕に話しかけてきた
“お母さんと同級生なのよ”
僕はなんだか変に大人びて見せたくて
“ああ、そうみたいですね”と
可愛くない返事をした
二人でしばらく黙って試合を見ていた

誰もが当然勝つものと疑わなかった
百戦錬磨の絶対王者
10回に猛攻をくらいリングに大の字に倒れて
それきり立ち上がらなかった