100%な朝を迎える方法

平凡な毎日の何気ない出来事を切り取っていく

「通り過ぎるだけ」

高校1年の彼は多感に塗れていた
田舎者が新しい土地で学びを始め
都会の駅の華やかなイルミネーションに
心をすっかり掻き乱された

この冬に買ってもらったダッフルコートに
身を包み
誰とも予備校にいる間喋ることもなく
ひとり寡黙を演じてそのくせ
話しかけてくれる人を待っている

雑踏の中を駆け抜けて
駅に向かう
それはクリスマスイブの夜
冬季講習の帰り道
少し名の知れたアイドルが
コンコースの真ん中に仮設された
ステージ上で唄をうたっていた

最前列には当時親衛隊と呼ばれる
はっぴを着た追っかけが数十人
声を張り上げて合いの手を打っていた
すごいパワーだね
よくやるよ
口々に声に出すカップルをかき分けて
さらに足を早めて歩き出す
身体をくねらせ人の流れをすり抜けて
親衛隊の横を
少し名の知れたアイドルの横を
ゆっくり歩くカップルの横を
険しい顔をして通り過ぎる

僕にはそんなことをしている時間はないんだ
そんなことを脳内で繰り返して
誰もと違うと自分を思って
信じて疑わなかった16歳の少年のこと