100%な朝を迎える方法

平凡な毎日の何気ない出来事を切り取っていく

「どろぼう」

母が雨戸を閉めだした
僕らはさっきから紅く染まる庭で
カセットテープから流れる
日本昔話の中のワンフレーズ
「ふとまた」という台詞が
とても気に入って
何回も巻き戻しては聴いていた

日が もうすぐ沈む

これからのことに背を向けるように
そして今の瞬間を貪るように
ひたすらにゲラゲラと笑った
笑って 笑って それで
家族が乗る車に最後に乗り込んだ

幼馴染達が走り出す車を追いかける
僕はリアガラスから必死に手を振る
リアの荷台にファミコンが置いてあって
それを見て彼らが
「ファミ!コン!泥棒!」と
走りながら大声で連呼する

車が速度を上げて
距離が広がって
追えなくなって
そして ひときわ大きな声で
「バイバイ!」
と手を挙げた幼馴染達は
ついに走るのを止めた
みるみる彼らの姿が小さくなって
見えなくなってしまう前に
車は角を左折した

抱えきれないほどの
たくさんの幼い想い出を
たくさんの友人を そして親友を
その土地に残して僕は去った

こうして僕たちは
きっと少しずつ少しずつ大人に
近づいていくのだろうって
そんな大人びた感傷を
いだけるのなんて
ずっとずっと先のことだった