100%な朝を迎える方法

平凡な毎日の何気ない出来事を切り取っていく

「タイヤの妖精」

もうすぐ家に着く路上の空き地で
動物の苦しそうな鳴き声が
聞こえたような気がした
家に帰ってもその事が気になって
嫌がる母親を連れ
暗がりの中を見にいくと
廃棄物の溜まり場の中の
タイヤのホイールに首がすっぽり
挟まって動けない仔犬がいた
僕達があれこれやっていると
やっぱり鳴き声が気になっていた
隣人が数人わらわらと出てきて
懐中電灯で視界を確保し
水をかけ毛の面積を減らし
滑りを良くし
なんとか外す事ができた
その子はひとまず
うちで預かることになった

でも、僕はもう一つ気になっていた
あの最中を
別の犬が遠くで見ていたような気がしたのだ

翌日
僕は彼を連れ近所の友人と一緒に
その空き地に行った
すると全く背格好の同じ犬が
やはりいたのだ
兄弟だろうか?双子だろうか?
とにかく彼らは
体いっぱいで
喜びを分かち合っていた

その犬は
友人が引き取ることにして
定期的に彼らを会わせるように
僕らの中で取り決めをした

ところが友人の母親は
犬が家にいる事を良しとしなかった
数日後、友人の母親は
車で遠くの地に捨てに行ってしまった

彼は散歩の時
あの空き地に行きたがり
友人の家に行きたがったが
いない事を知ると明らかに
オロオロ探していた

ある日の夕方庭でひとしきり遊んだ
僕は遊んでいるつもりだったが
でも何かを訴えかけているような
そんな悲愴的なものを彼の中に
感じずにはいられなかった

その翌朝のこと
雨戸を開けると庭にいるはずの
彼はいなくなっていた
首輪にしていた紐が
ほどけてしなだれていた

実は僕の両親もどうするべきか
あぐねていたのだ
ほどけていたのは意図的か偶然か

即席に設置した餌箱を見て
僕は寂しさはあったが
それと同じくらい
彼らの幸せを 強く祈った