100%な朝を迎える方法

平凡な毎日の何気ない出来事を切り取っていく

「指揮者」

母親の部屋の大きな三面鏡の前
ステージが始まる
みんなの顔を想像して
少し笑って見せる
大丈夫、楽しくやろうよ

別にやりたくて
やっているわけではない
秋も深まる受験の最中に
担がれた感があるのは否めない

僕が右手を振り上げる
同級生が肩幅に一斉に足を揃える
振り下ろすと伴奏が始まる

でも、そんなことぼやいたって
仕方がないさ
出来るだけの努力をして
やれるだけの
パフォーマンスを見せるだけだ

序盤はゆっくり、小さく
ソプラノの後にアルトが追随
その次にテナー、バスと順に右から左へ
視線を送る

ごちゃごちゃ茶化されるから
家族には言わないでいる
誰もいない静かな家で
小さく合唱を口ずさむ
頼れるのは自分だけだって

サビにはいってさらに力強く腕を振り出す
大きく羽ばたかせて煽動してみせる
声高らかに歌え
もっと!もっと!と

大丈夫、きっと上手くいく

大丈夫、きっと上手くいく

自分を激しく鼓舞する
大きく上げた両手を握りしめる

拍手と歓声が脳内に沸き起こる

プレッシャーに勝て
自分に勝て
どんな小さなことでも
どんなくだらないことでも
それが自分だ 
全力で立ち向かうんだ

鳴り止まない歓声の中
覚悟を決めた自分が鏡の中で少し微笑んで見せる