100%な朝を迎える方法

平凡な毎日の何気ない出来事を切り取っていく

「ブッキング」

浜風が開け放った車の窓から入ってきて
運転手の友人が奇声を発する
外が暗くても海が近いと強く感じた
外房の友人の家に向かっている
明日は朝イチで海に行く予定だ
男だけではあるが
久しぶりに高校の親友が3人集まるとあって
楽しみでしょうがなかった

たっぷり4時間かかった外房の友人宅で
俺たちは夜更けまで呑んだ
だけど、会話の合間合間で運転手の友人は
電話をかけに携帯を持って外に出た
どうも彼女と少し揉めているらしかった
部屋に戻ってくるとちょっとだけ暗い顔を見せて
また2人の馬鹿騒ぎに取り込まれていった

翌日は素晴らしく快晴だった
いい大人が3人波と戯れ続けた
刺さるような暑い日差しが気持ちよく
焼きそばを食いかき氷を飲み煙草を吸った
砂浜で寝そべってひと息つくと
運転手の友人が、言った

「ああ、楽しかったなぁ。さぁ帰るか」

まだ2時前である
俺と外房の友人は驚いた
いや待てこれからじゃないか、と
当然俺は奴を海に引き摺り込んだ
そんな悶着を何回か繰り返して
さすがに可哀想になったので4時に出ることにした

彼女との約束をブッキングさせていたのだ
明らかに数時間はかかる場所から
あと10分で着くという内容の電話を
何回もした
独り言もこう言えば大丈夫だ
この理由できっと納得するぜ
このジュースを渡せば機嫌も直るはずと
からしたら常軌を逸している内容を口にして
自らを鼓舞し続けていた

何だかんだで地元に帰ってきた時は
日もとっぷり暮れてしまっていた
玄関から出てきた彼女は明らかに激怒している
後ろの扉を乱暴に開けて
座席からどさどさと俺の荷物が落ちて
慌てて運転手の友人が拾いに走った
運転席に戻るや機嫌が直るはずのジュースも
「いらない」とぴしゃり ピリついた
俺の家までの道のり
前傾姿勢でハンドルを握る無言の友人の横で
俺もまた無言でポテチをぽりぽり食べ続けた

 

後日友人に会うと怒られた
どうにかあの時の修羅場は切り抜けたようだが
俺が車内で陽気に喋って取り持ってくれることを
期待していたらしい

いや、お前でなんとかせーよと