「鍵盤ハーモニカ」
できないくせにできているように
知らないくせに知っているように
そう振る舞うのが昔から得意だった
卒園まであと半年というタイミングで
俺は幼稚園を転校した
挨拶もそこそこに
夏休み終明けから秋の演奏会で披露する
鼓笛隊の練習に力を入れさせられた
俺は当然ピアニカという
その他大勢に回された
俺以外の彼らは春から練習を繰り返している
夏休みも自分のパートを課題として出されて
上手に仕上がっていた
もはや追いつくことは不可能にみえ
途中で覚えることを諦めた
それで発表会の日はやってきた
大きな文化会館の箱で
母親の見ている中
俺はスカーフを首に巻き付けられて
着飾ってステージに立たされた
隣の奴の指を盗み見ながら指の動きを真似た
ピアニカには息を吹き込まず
あたかも吹いているように
そして音を乱さないように
できているように演じきった
母親からはよく指が動いていたよと
褒められた
俺の嘘まみれの人生はきっと
もうそこから始まっていたのだろうと