100%な朝を迎える方法

平凡な毎日の何気ない出来事を切り取っていく

「あるべき場所」

となりの家は空き家になっている
子供たちが家を出て
定年をとうに過ぎた
老夫婦だけになったことを機に
駅前に住む親戚の暮らす家に移ったのが
もう数年前のこと
たまにその老夫婦が
旧家を訪れては
庭の手入れに来ているのを目にし
道で蜂合えば挨拶も交わす

元気そうである

ある日、庭で水をまいていたら
見知らぬ女性が垣根越しに声をかけて来た
「ここら辺にTさんという人の家を知りませんか?」
ああ、それは空き家になっている
隣家のことだ
ところがその女性の隣には
空き家に住んでいた旦那が立っている
「迷子になってしまったみたいなんです」と
事情がまだ飲み込めないまま
女性から旦那を引き取り
声をかける
掃除にでも来たのですか?
駅前の家のほうに帰るのですか?と
とりあえず一緒に駅前の家まで
向かうが何を問うても
こちらの話に頷くだけだった

景色は変わらずとも
季節は巡り、時は流れ
人は老いるということ
数日後、窓から空き家の庭を
掃除する老夫婦を見た
なんとなく旦那は
活き活きしているように見えた

家を建て 子供を育て
喜びも 悲しみも
長い時間を費やしたその場所で
それは果たして
気のせいだっただろうか