「握手」
教室を出る時
先生と握手をしてから帰る
それがそのクラスの決まりごとだった
今日も先生と握手をするために列をなす
先生さようなら
先生また明日と
一人また一人と教室から出て行く
彼の番になった
うつむきがちにおずおず手を握った
そのとき先生が冷やかに、彼に言った
ー なにしてんの ー
小二の彼にはわからなかった
握っている時間が長かったのかも
あいさつをしていなかったのかも
何かが変だったのだろうか
とっさに忘れ物をしたように装って
机に戻る
引き出しを覗きロッカーに回って口にする
どこだろ、おかしいな、と
“ほら先生もう帰るよ”
“待って待って、もうちょっと”
そんな女子児童達とのやりとりを耳に
見つかるはずもない探し物を
ずっと探し続ける
そして祈った 早くいなくなってくれと
今でも理由はわからない
でもたった一言が
今でも彼の心に深く残っていることは
確かだった