100%な朝を迎える方法

平凡な毎日の何気ない出来事を切り取っていく

「郵便局」

街で唯一の郵便局は
寂れた郊外の排ガスが舞う
県道添い
平屋の小さくて古い建物だった

従業員はいつも三人で
一人は年配の支店長
一人はぼっとしている長身の青年
そしてもうひとり
年上の女性局員に僕は
その冬恋をした

センター試験の願書を出しに
長いこと自転車を走らせて
初めて入った室内で
書留の伝票を書きながら
彼女の挙動をちらちら盗み見た

僕はその冬
五つの私大と二つの国立を
受験する予定だった
それでそのあと
七回郵便局に足を運んだ

会話は事務的なものだけでも
それだけでもう十分だった
たまに不意なことで笑いあえれば
それだけですごく嬉しくなった

七回目の手続きが終わった時
次に会うのはどこかの大学の
申し込み手続きです、と
人知れず呟いて寒風吹き荒む
扉の外に出ていった

いつしか冬が終わって春が訪れた

風はほのかに花の匂いを
優しく運んでくる
暖かなものに変わったのに

僕はそこに行く機会を
何も持ってはいなかった