100%な朝を迎える方法

平凡な毎日の何気ない出来事を切り取っていく

「通信教育」

小学生の時、友人の家に遊びに行って
その光景に心が震えた
本棚に成績で得た沢山のメダルや盾
返却されたテストのコメント欄に書いた
運動会のエピソードに赤ペンの返信
全国の同級生の中での順位が記された成績表
興味深い付録の数々
その通信教育の勧誘を受けて
彼は勉学に対する意欲を
激しく掻き立てられた

彼は帰ってすぐさま両親の説得に入った
しかし返事は思わしくなかった
赤ペン先生なんて学生がやっているんだ
だまされるな と
勉強じゃなくて
どうせ付録が欲しいだけでしょ と
そんな言葉が次々投げつけられた

自分の周りにいない見知らぬ大人が
自分の文章を見て返信してくれることに
勉強で日本中の同学年と競ってどの位置に
いるのかを初めて知れることに
それによって勝ち取る景品の喜びに
その想いを充分に語言化にできなかった彼は
悔し涙に暮れるしかなかった

後に勧誘してくれた友人は
県下一の進学高にすんなり入り
彼の代わりに勧誘に乗った男は
早大附属高に進学していった

彼は歳を取り
自由な金を持てるようになってから
通信教育と見るやつい食指が動き
そしてそのいくつかを体験して
子供の頃の虚無を埋めるようになった

しかし彼は受験に失敗している
いくら大人になって虚無を埋めていっても
“あのとき”
と思わないことはなかった

ただ、今までの軌跡で
ほんの少しでも何かがズレていたら
今、目の前で彼が果たせなかった教材
それをいそいそとやっている子供達に
会えなかったかと思うと
思うところは確かにある

そんな話をすると
手を止めてドライな子供が彼に言う
“その違う世界であったとしても
同じ事を言うんでしょう”と

確かに、そうかもしれないね と返す

でも、そんな異世界がたとえあるにせよ
現実に生きるこの世界
それ以外を彼はいくら思い起こしても
想像することはできなかった

あれはあれで、正しかったのだと