100%な朝を迎える方法

平凡な毎日の何気ない出来事を切り取っていく

「孟春」

21時を少し過ぎた時刻に
仕事を終えてコートの襟を直しながら砂利の駐車場に降りると
暗がりの中に女性と小さな犬の影が見えた
「お久しぶりです。年越せたんですね」
最近見かけなかったので少しほっとした
半年前の夏に今日と同じような時間に同じ場所で逢った
近所に住む高齢の女性と17歳になる痩せた小型犬
うちの実家にも全く同じ年令の犬を飼っていたのでその時意気投合したのだった
うちの犬は秋口に老衰で死んでしまった
「強いですね」
そう伝えると女性は目尻に皺を寄せてほほ笑んだ

強いな  

心の底からそう思った
眼も見えてないし、オムツもしている 
でもしっかり大地に足を踏張っている
長いこと何匹もの犬を飼われていたという女性に帰りぎわ聞いた
「また飼いますか?」
「いえいえ・・ もうトシですから・・」と

車に乗り向きを反転させた時
そこにもう 姿はなかった