100%な朝を迎える方法

平凡な毎日の何気ない出来事を切り取っていく

「ギアを変える」

ギアをローに入れてクラッチを少し上げる
エンジンが繋がる感触を得て
車が少しずつ動き出す

ローからセカンドに
セカンドからサードを経てトップ
左手はずっとギアの上に乗せている
信号待ちの停車ではエンストを恐れて
クラッチは切れているにもかかわらず
癖のように左右に動かしてしまう

たまに愛車とのシンクロする率が
すこぶる良い日があって
身体の延長のように感じる
そういう日は無駄に遠回りをしてしまう
そういう時は走っていて気持ちがいい

就職したての夏に3年半のローンで買った
スポーツタイプの車
隣に座る付き合っている人に
走行中操作するように促すと
こぞって緊張と紅潮を見せてきた
結婚した時
義理の母を助手席に乗せて車高の低さに
ひどく興奮されて
子供が産まれた時
用途にそぐわなくなって、ついに買い替えた

次の車も車種はともかくマニュアル車
よかったけれど妻がAT限定だった
以降何台か買い替えたが時代の流れが
許してはくれなかった

もうどんな車に乗っても
もうあの時のような
車との一体感を得ることはない

でも、気づくと左手は無意識にも
シフトをつかんだまま運転している