100%な朝を迎える方法

平凡な毎日の何気ない出来事を切り取っていく

「一番遠い場所」

彼はその日
誰からも遠い桜の木の下で
カメラを首に下げ
ひとり寂しそうに立っていた

数年前、妻に誘われて
ママ友仲間の飲みに連れて行かれた
各々の旦那も集い
ぎこちなくも初対面の四、五人の男が
酒を酌み交わす
彼はその陽気な性格から
すぐにリーダー格になった

日に焼けた肌と
年齢の割に締まった身体
大きな声で
あちこちに顔を出しては笑いをとっていた
僕はそんな様子を隅で見て
チビチビ飲んでいただけなのに
その日酷く悪酔いし
途中トイレに何度も駆け込んで
以降の記憶が全く無い

それから何度か酒やキャンプやら
その仲間でしたいと
彼から誘いを受けたのに
僕は難癖つけて断った
別段嫌いというわけでもなかったけど
特に理由も無かった

彼の浮気が発覚したのは
子供が小学六年の年
彼の妻は許すことができずに
結局卒業を待ち子供を連れて家を出る
うちの子とは
別の中学校に通うことになった

小学生最後の晴れた屋外で
校舎を出る子供を待ち受けている時
その仲間達と久しぶりに会った
時の流れは早いものですねと
月並みな台詞をしみじみ交わす輪の先に
彼を見つけて会釈する
あの時の陽気さは見られなく
結局輪には入ってこなかった

声もかけられぬ遠い位置から
子供達のはしゃぐ姿を
祝福の言葉が飛び交う春の訪れを
そしてもう、戻れぬ日々を
さまざまな想いを彼はカメラを構え
静かにシャッターを切っていった