「高校野球」
古びた市営球場のスタンドの隅で
プレイボールを待っていた
ホームベースへの視界の前に
嫌でも目に入る中年の姿
地肌のよく見える頭髪は
縮れて微妙に長く無造作で
中肉中背の膨らんだ下腹は
チェックのシャツでひどく目立つ
コンビニのビニール袋の中に
筒状のポテトチップスと
少しばかりのつまみの類い
くしゃくしゃのスポーツ紙と
クーラーボックス
それにロング缶のビールが二つ
その袋を挟むのはたぶんその息子
やはり中肉中背のたるんだ身体の若い息子
黒いTシャツにキャップを被ったその青年
ずっと何も喋らず二人で
暫く袋をがさごそと漁っていると
そのまま開始のサイレンを聞いた
父はビールを煽りすでに赤く
子が少し遅れて
プルトップを引いた
ふと父親が息子を見て
お互い笑顔で微笑みあった時
私は今までの自分をひどく恥じた
そんな後列に座る人間の心はよそに
二人は缶に口をつけ
うまそうにゴクリと同時に飲んだ