100%な朝を迎える方法

平凡な毎日の何気ない出来事を切り取っていく

「オケラ」

仕事の帰りに駅前の路地で
一服していると
足元に三センチくらいの
細身の虫がいた

初めはゴキブリかと思ったが
動きの緩慢なその虫を
屈んでじっと目を凝らすと
独特な手の形に見覚えがある

オケラだった

手が水掻きみたいに
外側に開いているケラというその虫は
ユーモアな体型をしているのが面白くて
田舎にいた子供時代
よく捕まえては遊んでいたものだ

こんな都会の街中にいることに
驚いた
そして急に膝に飛びついてきては
大人の今ではさすがに
声を出して反り返ってしまった

幼少の頃、母親が寝る前に
僕ら兄弟に添い寝して
「あなたの背はどんくらい?こんくらい!」
と言って
オケラの手の真似をして
おどけると僕らは何度も
ゲラゲラと笑っては
なかなか寝ないものだった

何十年も心の奥底に
眠っていたそんな
古い記憶を振り返っていると
そいつは何度も低く飛び
壁にあたり 地面にあたり
ついには自販機の下に
潜り込んで消えてしまった

淡い想い出と一緒に