「アルファロメオの男」
履いているのは先の尖った靴
携えている長いもみあげ
長身細身のスーツを着込んで
煙草を燻らせながら
呑気に歩いて出社する
どんなトラブルにも
優雅に対応して
焦る姿など見たことがない
いつも落ち着いていて
声を荒げることもない
バツイチであるが
それに気負いは全くない
一度してしまえば
どうってことないさ
“童貞みたいなもんだよ”と
静かに笑って煙を吐く
休みの日は外国製の赤い車に乗り
都内をひとりドライブする
ああ、大人の男だよ
そんな彼を羨望の眼差しで
遥か遥か
遠くから眺め見るばかりの俺
これは、いくつになっても
辿り着くことのできない
その境地と少し諦める