「畦道」
放課後
クラスいちの人気者が
先生の前でおどけているのに
先生は泣いていた
彼のお母さんの病気が悪化して
今度腕を切るのだとかという話を
僕は聞こえないふりで
やり過ごした
夏休み前にお母さんは亡くなった
先生が昼の授業を放擲して
クラス全員を彼の家に向かわせた
みんなで列をなして
両脇に田んぼがずっと連なる
長い長い車道を歩いていった
小三である
分別もよく解らず授業がサボれて
ちょっとした遠足気分だった
彼に会って
ひとりずつお焼香をさせてもらい
同じ道を帰ってきた
行き交う車はほとんどなく
そして誰も何も喋らなくなった
残酷なくらい快晴の日で
風になびく稲穂の音だけが
妙に騒がしくって
太陽に反射した稲は色濃くて
それが目に沁みて沁みて
しょうがなかった