100%な朝を迎える方法

平凡な毎日の何気ない出来事を切り取っていく

「指輪」

春の生暖かい日差しが降り注ぐ午後
二人の祖母の指輪を買いに街に出た

金はそれに使い切ると以前から決めていた
ただ指輪なんて見に行くのも買うのも初めてで
店に入るのも憚られ
意を決して入った宝石店で
物色していると化粧の厚い
中年の女性が寄ってきて聞いてくる

“初任給で二人の祖母の為に指輪を買いたいんです”

女性も初めは真摯に
いくつか見繕って出してくれたが
どれにもセンスの悪さを感じて辟易していると
似たように化粧の濃い中年店員が
更に加わっていろいろ運んでくる
しかし値段がどんどん釣り上がり
予算をはるかに超えてきた
ちょっと高過ぎますよと愚痴ると
ローンで買えばいいじゃない

お婆ちゃんも喜ぶよ

と臭い息を吐いて
のたまうのをきっかけに店を出た

それで次にその三つ先の店を
見つけて中に入る
さっきの店より明るさも品もすこぶる良い
心惹かれる品がすぐ見つかって
一つはすぐ確定したがもう一個が見つからない
盾と言えば矛、柔と言えば剛、阿と言えば吽
そういった双極となるようで
違うもの
そして公平に同じ値段になるものがいい
散々悩んで一つだけ買って店を出た

そこから随分店を巡った
街を変え駅を変え
それですっかりと日が暮れて
肌寒くなった頃、煌々と光る
先程買った店のチェーン店に
辿り着いてふらふら入る
チェーン店だからさっき買った指輪と
全く同じものが置いてあった

眼鏡の上品な年上の女性店員に
今までの全てを話した
“同じものでもいいんじゃないですか?”と
それで背中を押されて
全く同じ値段の同じ指輪を
全く同じ包装にしてもらった

おばあさまもきっと喜びますよ

店を出がけにそう声をかけられて
若者らしく暗がりから
ぎこちない笑顔で会釈をして
外に出た