100%な朝を迎える方法

平凡な毎日の何気ない出来事を切り取っていく

「奇声」

朝、たまに乗り継ぎの駅で
少し遅れた電車に乗ると
彼はいる

ああ、この時間の
この車両だったとあらためて
気づいて
乗り込んだ事をほんの少しだけ
後悔する

彼は車内に響くほどの奇声を
定期的に発するのだ

最初に乗った時はさすがに驚いた
でも別に害はない
だからもう何回も乗ってしまうと
多少は慣れる
響く声にも動じず本も読める
初めて目の当たりにして
なんとなく落ち着かない
OLや学生に
別に大丈夫ですよと
言ってやりたい気分だ

言葉は主に
的を得ていない単語群で
怒っている内容ではないが
怒っているように発するから
怒っているように聞こえる
先日は気付かずに
満員電車に押し込まれた流れで
目の前に来てしまった
どうしたらいいかわからない
横にいる小さな女子高生のために
盾となり前に立って単語群を
モロに浴び続けた

こういう時
どう感じ、どう接し
どう振る舞うことが
一番相応しいのだろうか
そんな事を出会う度に
考えさせられる
そしていつも
結論は固まらないうちに
彼は電車を降りていく

ただ
こんなにも存在感があるのに
目の前に立たれたこともあるのに
思い出そうとすると
風貌はおろかその特徴的な声
もろとも
ほとんど記憶にない
気分がいいのかとか
怯えているのかとか
憤っているのかとか
恥ずかしがっているのかとか
知る由も無い

いやしかし、これこそが
正しい答えなのかもしれないと
思ったりもする