「赤いズボンとブルーの水着」
母の吝嗇癖は相変わらずのものだった
成人になって見るそれは
ああ、またかで済むが
子供の頃のそれは彼の生活に、精神に、
深く食い込んでいった
新築への引っ越しによって
移った先の幼稚園では赤い運動パンツが必要だった
母は彼に赤い普通の半ズボンを持たせた
ボタンとポケットの多いそれは
新参者の格好の冷やかしの的であった
それを履かなければならない運動が大嫌いになった
小1の時の最初のプール
多くの子供は学校指定の濃紺の水着を着ていたが
母は家にあったアニメのアップリケが左下に
大きく貼ってある青い水着を持たせた
水泳の間中左手でそのアップリケを隠し続けた
いつも雨が降れと祈った
小2になって絵の具の授業が始まり
水を溶くバケツにプリンの空き容器を
持たせようとした
そんなことばっかりだ 惨めだ
はじめて彼は大激怒した
もう嫌だった
何もかもが嫌になった
その頃にはもう学校に行くのも大嫌いになっていた
右へ習えのこの国で
彼は異物の存在だった
異物は組織の中で速やかに排除される