「沈黙と空気」
不思議な体験がある
自分に何もないということ
会社の送別会か何かの後に
飲み直さないかと同僚に声をかけられた
男4人で近くの居酒屋に入った
くだらない話に馬鹿みたいに笑い
卑猥な話に声を顰め
楽しく会話をして過ごした
楽しく?
何時間か過ぎた頃異変に気づいた
僕は、自分から何一つ話題を出していない
話題を出していないどころか何かに対して
他の3人に伝わる返しすらしていない
僕は間違いなくその中にいた
一緒に笑い一緒に楽しんだ
ただそれはそこの雰囲気を壊さないだけで
いなくてもいい、空気だった
何かを言わなければと思うが
何かを提供しなければと思うが
手持ちに何の言葉のカードが無かった
会話の中でこういうところで頼むユッケは
小さいんだよという話になった
それで僕は店員にユッケを2つ頼んだ
数時間その場所にいて
僕がはっきり喋ったのはそれだけだった
そしてユッケは最後まで残っていた
僕は酒で歪む意識の中ではっきりそれを確認した
何かがずれていると感じながら
そして僕には何もないと思い知る