100%な朝を迎える方法

平凡な毎日の何気ない出来事を切り取っていく

2022-06-01から1ヶ月間の記事一覧

「オケラ」

仕事の帰りに駅前の路地で一服していると足元に三センチくらいの細身の虫がいた 初めはゴキブリかと思ったが動きの緩慢なその虫を屈んでじっと目を凝らすと独特な手の形に見覚えがある オケラだった 手が水掻きみたいに外側に開いているケラというその虫はユ…

「市電と夕日」

夕焼けで赤く染まる海岸沿いの国道を自転車で走りながら彼女の待つ駅に向かう潮の匂いが鼻をつき浜風が髪を撫で続けたはやる気持ちを落ち着かせても自然と漕ぐ脚の力が強くなる初夏の陽気が制服の背中を膨らませたもうすぐ もうすぐヘッドライトが眩しく感じ…

「微熱」

少年は指折り数えてその日を待った多忙な父親に時間が取れてどうしても見たかった映画を見に行く事を約束していたのだところがよりによってその日少年は熱を出してしまった39のライン近くまで昇る水銀計を見て父親は躊躇し説得するが少年は諦めきれなかった…

「気だるい気分」

スヌーズ機能で三度目の目覚まし音が鳴るもう一回目の音から気づいてるさはっきりしない憂鬱さばかりが頭をもたげて時間ギリギリで身体を起こした嫌な奴の顔やらなければならない面倒くさいこと勝手に浮かぶ腹立つ出来事そんな気持ちをシャワーで洗い落とす…

「用水路」

雨が強くなって道の横を走る大きな用水路に波紋が重なるまた、つまらない喧嘩をしてしまったでもまだ若い彼は彼女の小さな言動をどうしても消化できなかった “もう、今日は帰るよ” そう言って住宅街の十字路で別れた歩きすがら燻らせた煙草の煙は重い気持ち…

「かもめ」

雨上がりの夕方にかもめが二羽飛んで行った嫌な奴の顔はしとしと降る雨の中腹立つ出来事はしっとり湿る湿気のまとわりホームから見える雲の切れ間の夕日にでは、簡単にと切り替えなどできるものか電車が進むたび日が暮れるせめてさっきの鳥が本当にかもめで…

「どうでもいいですよ」

「どうでもいいですよ」彼らの流儀だ無気力無目的無計画何につけても本腰を入れないやる気なかったから別に興味なかったから とのらりくらりと過ごしていく一見にしてクール、ドライ しかし それは恋愛、それは仕事、それは試験じゃあ本気になければ手に入ら…

「視点の差」

服が見たいという妻と分かれていつもの場所に行く ショッピングモールのペットショップはまだ幼い娘にとってはちょっとした動物園感覚なのだろう温度と光を配慮した爬虫類コーナーから色とりどりの金魚の群れが綺麗な数々の水槽そしてゲージに入った犬や猫達…

「改札口」

降りる駅の改札口を抜ける時に引っかかった 入る時に後ろで鳴っていたエラー音は自分のものだったんだと今更気付く駅員に定期のカードを補正してもらうために人の波をかき分けて窓口に向かいがてらイヤホンを外すとわっ と人混みの喧騒が耳に入り込んだ気に…

「どろぼう」

母が雨戸を閉めだした僕らはさっきから紅く染まる庭でカセットテープから流れる日本昔話の中のワンフレーズ「ふとまた」という台詞がとても気に入って何回も巻き戻しては聴いていた 日が もうすぐ沈む これからのことに背を向けるようにそして今の瞬間を貪る…

「金属の音」

長いこと勤めていたデイサービスが閉鎖になって畑違いの不慣れな移動先で早二ヶ月が経ったすっかり心が塞いでしまって笑顔を思い出すため曇天の中のある休日の昼下がり車を走らせ閉鎖されたその場所にふらと行った 楽しかったかと言われればそればかりではな…

「本当は」

彼女は話好きだ 幼少期の頃から喋る方だとは思っていたが高校から大学にかけて輪をかけるように会話が止まらない大学のサークルでやったことバイトのシフトの文句バスで見かけたくだらない出来事やおやつに買ったパフェの話よくもまぁこれだけ次から次と話題…

「音楽の授業」

中学に入ってすぐの音楽の最初の授業教室をゆっくり歩く若い女教師はずっと眉間に皺を寄せて彼らに語りかけていたある生徒が問われた質問にまごつくとその女教師はいきなり教室中に響き渡るほどの恫喝をした次に指された生徒はそれにすっかり萎縮し聞こえな…

「魔女」

ある年齢からそいつは隙を突いて訪れる時に何の前触れもなく時にちょっとした油断を逃さず 今回は珍しく前兆があった捻ると感じる腰の違和感ただそれが何であるのかをいまいち認識できなかった 家に帰って荷物を置いて少し前かがみにその時そいつは正確に姿…

「ポラロイドカメラ」

学生時代 一番最初に稼いだバイトの金でポラロイドカメラを買ったスマホもガラケーすらない時代に撮ったその場で写真を見る事ができるその時代唯一の機械だった 街に出て心に引っかかるものを撮りに回った一枚二百円弱もするフィルム代にその一枚一枚に魂を…

「カラオケ」

中学校を卒業して2年後にはじめての同窓会があった小さな街だったが電車通学の高校に通う人が多い中自転車で通っていた僕は彼らと会うことがなくほとんどの奴が卒業以来の久しぶりだった 中学の頃好きだった子がいっそう綺麗になっていて田舎じみた服装をし…

「19歳」

19歳だったいろんなものを犠牲にしてずっと頑張ってきたつもりだったけれど今年の春もどこの大学も僕を入れてくれなかった 悔しいとか、悲しいとかそう言う感情はなかったただただ自分が憎くてしょうがなかった殺したいくらい憎かった自殺する人が今の苦しさ…

「朝靄」

まだ朝も早い公園のベンチで老人がカップラーメンを啜る 立ち登る湯気が朝靄に絡まっているプラスチックのフォークで絡めた麺をすぼめた口で息を吹きかけ一気に啜っていくジョギングをしている人が行き交い会社に向かう出勤者が足早に通り過ぎたこれから始ま…

「意思疎通」

算数セットというものがあった子供が手で抱えるくらいの大きな箱の中に数を数えたり時計を読んだりする訓練のための教材ある日の自習に隣の女の子と対になってそれを使って勉強するという時間があった 周りの同級生が和気藹々と進めている中僕たちは最初から…

「祭り」

「ここはお祭りとか、無いんですか?」この発言に誰もが振り向いた 越してすぐに参加した新参者のママさんが町内会の集まりで発した言葉である地方都市の転勤族が集まる典型的なこの集落はずっとそこに住んでいる人の方が少なく地域に伝統とされる行事は皆無…

「青色の空」

防波堤をひたすら歩き続ける「ねえ、怒ってるの」沈黙に耐えかねて後ろから声をかけた「ねえ、ってば」同じ歩幅で追いかける「別に怒ってないよ」なのに、2メートルの差が縮まらない「じゃあ、なんで止まんないのさ」夏の暑さが浜からの風で薄まる「別にさ」…

「噛んでも噛んでも」

スイミングの受付で事務のおじさんと友達数人で雑談をしていた折ジャンケンで勝ったらガムをくれるということになって勝負運の悪い僕が珍しく勝っておじさんからガムを受け取った あんまり菓子とか出ない厳しい家で育ったのでそのことが ことのほか嬉しくス…