「神の宿る場所」
小学校に上がるかどうかの頃
彼はいつも寝る前に祈っていた
布団の中で手を合わせ
神様と会話をするのだ
その神が何であったのかはわからない
先祖なのか はたまた自分を守ってくれる何かか
とにかく毎晩祈ってから眠りについた
何で始めたかもわからない
ただその習慣は20代前半に
彼女と同棲するまで続いた
会話は家族と財産の安全を祈り
困っている事柄の解消を願い
邪な願望を懇願することから始まり
今日の無事を感謝し
日常の反省を振り返り
明日の誓いを捧げて終える
子供の頃はなぜか
願いはよく叶った まさに神がかりだった
もちろん子供の願い、子供の頃の記憶だから
真意はわからない
でもそのうち欲が強くなってきて
次第に叶わなくなってきたのは覚えている
時に受験 時に恋愛 時に就職
神はやがて試練ばかり授けてくれるようになった
それで
神などいないのだ と
大人になった彼は天を仰いでそう呟いた
終電間際の駅のホームで
電灯にさらされながら
ひとり大きな溜息をついた
今日の感謝を
日々の反省を
明日の挑戦を
溜息とともに線路に流した
神が姿を変えたのはどうしてなのか