100%な朝を迎える方法

平凡な毎日の何気ない出来事を切り取っていく

創作

「デパガ」

平日の売り場は空いていたお昼を回って少しだけ駅に活気が出たけど昼休みに服を買う人はなく同じ姿勢で下りエスカレーターにただただ笑みを投げ続けた私はテナントのしがない売り娘ターミナル駅から歩いてすぐの百貨店の6階にある女性衣服売り場の普通の売り…

「咀嚼」

不安で押しつぶされそうな悩みを脆い脆い心の歯で無理に噛み砕いて一気に飲み込む 飲み込んでも飲み込んでも次々と湧いて出る不安の種を強がりという木槌で粉々に叩いて薬袋に包んで水でむりやり流し込んだ さて、あしたも頑張りましょうか

「演劇」

僕は目立たないように生きてきたなのにさ 秋の文化祭で中3はクラスごとに劇をやらなければならない考えだだけでも舞台にいる自分は耐えられなかっただから高倍率の裏方を志望したそしてジャンケンで負けただから何かの配役に就かなければならなかったせめて…

「私の願い」

人の往来の激しい通勤ラッシュの駅改札口切符が取り残されて閉まったままアラートの鳴り続けている改札ゲートの隣をあえて選んで通過しがけにその切符を抜いていくそういうことをする人間でありたいな

「もの言う人々」

“ぜんぜん人の悪口言わないんですね” って言われた ああ…そうですね って曖昧に返事してふと、考えを巡らす思い当たるとすればあの出来事だろうか 遊園地でのバイトのこと昼休みどきの小さな休憩所はすでに学生とパートのおばちゃんで鮨詰め状態だった遅れて…

「鼻歌」

嫌がる小学生の娘を連れて夏の高校野球を見に行った もう2回の表あたりですでにつまんないとか暑いとか飽きたとかさんざん悪態つかれて試合が終わって帰る時には二度とくるものかとぷりぷりしているので駅前でパフェをご馳走して機嫌をとった 数日後彼女が機…

「昨日の続き」

朝起きるといつのまにか寝ていた昨夜の記憶は曖昧でいつ寝入ったのか何をしていたのか日の唯一の楽しみ 微睡みの時間を堪能できなかったことをひどく後悔して朝の気分は良くなかったこうして昨日の続きが始まっている

「今日の終わり」

日暮れの雨が見える景色を全部青くした帰路の車窓から見えるそれらはまるで水の中にいるようで否応なくかぶさってくる闇に惜しみ焼き付けるように眼を開く今日の終わりは今日の終わりは青いのだ ということ 改札を出てしまうとすっかり外は暗くなっていた

「電車の人」

ある日の夕方学校から塾までの車内で珍しく座れたのででる単なんかを読んでいたのが災いし揺れもやっぱり心地よくてついうつらうつらしてしまった ちょっと疲れていたかな寝不足が続いていたかもあっという間に夢の世界に落ちていく30分の距離を揺られて揺ら…

「赤いズボンとブルーの水着」

母の吝嗇癖は相変わらずのものだった成人になって見るそれはああ、またかで済むが子供の頃のそれは彼の生活に、精神に、深く食い込んでいった 新築への引っ越しによって移った先の幼稚園では赤い運動パンツが必要だった母は彼に赤い普通の半ズボンを持たせた…

「生命」

生きているというただそれだけの幸せ 今日が来たというただそれだけの幸せ 天気は快晴 穏やかな風 それを感じれるだけでも 今日は幸せ さて、今日も 頑張っていきましょう

「呼吸」

力を吸い込み 弱さを吐き出す 強気を吸い込み 弱気を吐き出す 明るさを吸い込み 暗さを吐き出す 善を吸い込み 悪を吐き出す 幸運を吸い込み 悪運を吐き出す 大地から 大気からすべての生物から きっと うまくいくきっと いい方向に繋がる 気を張ってないとあ…

「良いことが起こりますように」

歩道沿いの喫茶店でコーヒーを啜っていた隣の席には老夫婦がモーニングを食べているそれはとってもとっても仲睦まじい 夫の胸元の携帯が鳴りそれに応対するため律儀に店の外に出ていった柵に腰掛け長いこと話をしている妻はそんな様子をじっと眺めていてたま…

「オケラ」

仕事の帰りに駅前の路地で一服していると足元に三センチくらいの細身の虫がいた 初めはゴキブリかと思ったが動きの緩慢なその虫を屈んでじっと目を凝らすと独特な手の形に見覚えがある オケラだった 手が水掻きみたいに外側に開いているケラというその虫はユ…

「市電と夕日」

夕焼けで赤く染まる海岸沿いの国道を自転車で走りながら彼女の待つ駅に向かう潮の匂いが鼻をつき浜風が髪を撫で続けたはやる気持ちを落ち着かせても自然と漕ぐ脚の力が強くなる初夏の陽気が制服の背中を膨らませたもうすぐ もうすぐヘッドライトが眩しく感じ…

「微熱」

少年は指折り数えてその日を待った多忙な父親に時間が取れてどうしても見たかった映画を見に行く事を約束していたのだところがよりによってその日少年は熱を出してしまった39のライン近くまで昇る水銀計を見て父親は躊躇し説得するが少年は諦めきれなかった…

「気だるい気分」

スヌーズ機能で三度目の目覚まし音が鳴るもう一回目の音から気づいてるさはっきりしない憂鬱さばかりが頭をもたげて時間ギリギリで身体を起こした嫌な奴の顔やらなければならない面倒くさいこと勝手に浮かぶ腹立つ出来事そんな気持ちをシャワーで洗い落とす…

「用水路」

雨が強くなって道の横を走る大きな用水路に波紋が重なるまた、つまらない喧嘩をしてしまったでもまだ若い彼は彼女の小さな言動をどうしても消化できなかった “もう、今日は帰るよ” そう言って住宅街の十字路で別れた歩きすがら燻らせた煙草の煙は重い気持ち…

「かもめ」

雨上がりの夕方にかもめが二羽飛んで行った嫌な奴の顔はしとしと降る雨の中腹立つ出来事はしっとり湿る湿気のまとわりホームから見える雲の切れ間の夕日にでは、簡単にと切り替えなどできるものか電車が進むたび日が暮れるせめてさっきの鳥が本当にかもめで…

「どうでもいいですよ」

「どうでもいいですよ」彼らの流儀だ無気力無目的無計画何につけても本腰を入れないやる気なかったから別に興味なかったから とのらりくらりと過ごしていく一見にしてクール、ドライ しかし それは恋愛、それは仕事、それは試験じゃあ本気になければ手に入ら…

「視点の差」

服が見たいという妻と分かれていつもの場所に行く ショッピングモールのペットショップはまだ幼い娘にとってはちょっとした動物園感覚なのだろう温度と光を配慮した爬虫類コーナーから色とりどりの金魚の群れが綺麗な数々の水槽そしてゲージに入った犬や猫達…

「改札口」

降りる駅の改札口を抜ける時に引っかかった 入る時に後ろで鳴っていたエラー音は自分のものだったんだと今更気付く駅員に定期のカードを補正してもらうために人の波をかき分けて窓口に向かいがてらイヤホンを外すとわっ と人混みの喧騒が耳に入り込んだ気に…

「金属の音」

長いこと勤めていたデイサービスが閉鎖になって畑違いの不慣れな移動先で早二ヶ月が経ったすっかり心が塞いでしまって笑顔を思い出すため曇天の中のある休日の昼下がり車を走らせ閉鎖されたその場所にふらと行った 楽しかったかと言われればそればかりではな…

「本当は」

彼女は話好きだ 幼少期の頃から喋る方だとは思っていたが高校から大学にかけて輪をかけるように会話が止まらない大学のサークルでやったことバイトのシフトの文句バスで見かけたくだらない出来事やおやつに買ったパフェの話よくもまぁこれだけ次から次と話題…

「音楽の授業」

中学に入ってすぐの音楽の最初の授業教室をゆっくり歩く若い女教師はずっと眉間に皺を寄せて彼らに語りかけていたある生徒が問われた質問にまごつくとその女教師はいきなり教室中に響き渡るほどの恫喝をした次に指された生徒はそれにすっかり萎縮し聞こえな…

「魔女」

ある年齢からそいつは隙を突いて訪れる時に何の前触れもなく時にちょっとした油断を逃さず 今回は珍しく前兆があった捻ると感じる腰の違和感ただそれが何であるのかをいまいち認識できなかった 家に帰って荷物を置いて少し前かがみにその時そいつは正確に姿…

「ポラロイドカメラ」

学生時代 一番最初に稼いだバイトの金でポラロイドカメラを買ったスマホもガラケーすらない時代に撮ったその場で写真を見る事ができるその時代唯一の機械だった 街に出て心に引っかかるものを撮りに回った一枚二百円弱もするフィルム代にその一枚一枚に魂を…

「カラオケ」

中学校を卒業して2年後にはじめての同窓会があった小さな街だったが電車通学の高校に通う人が多い中自転車で通っていた僕は彼らと会うことがなくほとんどの奴が卒業以来の久しぶりだった 中学の頃好きだった子がいっそう綺麗になっていて田舎じみた服装をし…

「19歳」

19歳だったいろんなものを犠牲にしてずっと頑張ってきたつもりだったけれど今年の春もどこの大学も僕を入れてくれなかった 悔しいとか、悲しいとかそう言う感情はなかったただただ自分が憎くてしょうがなかった殺したいくらい憎かった自殺する人が今の苦しさ…

「朝靄」

まだ朝も早い公園のベンチで老人がカップラーメンを啜る 立ち登る湯気が朝靄に絡まっているプラスチックのフォークで絡めた麺をすぼめた口で息を吹きかけ一気に啜っていくジョギングをしている人が行き交い会社に向かう出勤者が足早に通り過ぎたこれから始ま…